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ゆっくりとドアを開けると、イブちゃんがいた。
なんだか、騒ぎすぎて怒られて、しょんぼりしている小さい頃のイブちゃんと姿が重なる。
イブちゃんといると、あの頃を思い出して懐かしさの中に、嬉しさや楽しさが湧き上がってくる。イブちゃんはあたしの大切な友達だったんだもん。だから、これからもきっとそうでありたいって気持ちは絶対にあたしの中にある。
「イブちゃん、諦めなくていいよ」
「……え?」
諦めるって言い方は、なんだか違う気がする。
「イブちゃんは、あたしの大切な友達だから、諦めるとか、ないよ」
うん。友達とは一緒にいたり、仲良く遊んだりするものだもん。デートとか付き合うってなると、よく分からないけれど、友達だったらきっと、イブちゃんとも、兄や雫みたいに接することができるはず。
「……大切な、友達?」
「うん。だから、諦めてほしくはない、かな」
そばにいても嫌じゃないし、ホッとするし。
「優乃っ!」
笑顔になったかと思えば、いきなり抱きついてくるイブちゃんに、あたしは必死の抵抗をする。
「距離感!!」
そこだけはほんと最初っからバグってる。
あたしの許容範囲に入れてしまうのは、小さい頃もこうしてよく抱き合って喜んだり手を叩き合ったり繋いだり、当たり前の様にしていたからかもしれない。それだって嫌じゃないけど、今はなんか、恥ずかしい。
「ありがとう優乃。やっぱり大好きだよ」
グイグイと引き剥がそうとしても、イブちゃんはあたしの顔を覗き込んで微笑むから、一気に頭に熱が上るのを感じる。
「あ、優乃照れてる? 嬉しいな」
一瞬、力の緩んだあたしをふわりと抱きしめたイブちゃん。広い胸元は、やっぱりほんのり甘い綿菓子の匂いがして心地いい。
「あ!! なにイチャイチャしてんだよ! やめろ! 俺の前で!」
急に聞こえてきた兄の声に、あたしはハッとして両腕を伸ばした。少しだけイブちゃんから離れられたけど、まだ距離は近い。
「仲直り出来たよ、慎一郎っ」
「……ははっ、それはよかったな」
見上げた先に、嬉しそうに笑うイブちゃんの笑顔。思わず胸が高鳴る。これは一体、なんだろう。
「雫が駅で待ってるってから行くぞー」
呆れた様に笑って、兄は階段を降りていく。
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