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→それは、恋。
「優乃、それは恋よ」
「……は!?」
駅まで兄とイブちゃんと歩いて来て、雫と合流した後、電車に乗ったあたしたち。
兄とイブちゃんは入り口ドア付近で立ったままで、あたしと雫は空いていた座席に座っていた。
ガタンゴトンと電車の走行音であたしの驚いた声はかき消されて、二人には届いていなそうだけど、つい、次の一言は小声になってしまう。
「え? は? なにそれ、なんで?」
雫は慌てるあたしを見て優しく微笑む。
「うーん、今はまだ気が付いていないだけだと思う。ほら、今日一日伊吹先輩と過ごしてごらんよ。きっと、今よりもっと一緒にいたいって思うはずだよ。帰り際に淋しく思ったりとか」
「……まさか」
そんなことないと思うけど。
だってイブちゃんはお兄ちゃんや雫と一緒だもん。遊べばきっと楽しいし、「また明日ねー」って笑って手を振って帰るだけでしょ。まぁ、お兄ちゃんとは家に帰っても一緒だけど。
「いいなぁ、優乃。慎兄とずっと一緒にいれるんだもん。うらやましすぎる」
「へ?」
ぷくっと頬を膨らませた雫の顔が困った様に照れていて、なんだかものすごく可愛い。
「この前慎兄言ってたでしょ? あたしのこと……その、め、めちゃくちゃ、好き……とか、って」
「え、あ、うん……」
「あたしだって、慎兄のことめちゃくちゃ好きなんだよ……だからね、ずーっと一緒にいられる優乃がすっごく、羨ましい」
一気に頬を赤くして雫が言うから、驚いた。
こんな表情の雫、ずっと友達やって来ていたのに初めて見た。
チラリと兄とイブちゃんに視線を向けると、イブちゃんがすぐに気がついて小さく手を振ってくれる。ドキっと胸が高鳴るのは、やっぱりどこかおかしい。
「慎兄って、優乃の言う様にカッコいいしモテるでしょ? あんな風に言ってくれるけど、あたしみたいなふつーのまだ高校生でもない子供が、一緒にいて良いのかなぁって、本当は不安なんだ」
「え、雫が不安?」
「まぁ、柄じゃないけどね。中学の頃から女子に人気あったし、モテっぷりは知ってるから、高校生になってさらにカッコよくなった慎兄が、高校ではなにしてるのかとか、周りに綺麗な女の子たくさんいるんじゃないかとか、見えない分すごく不安で……」
ほうっとため息を吐き出す雫は悩ましい。
「優乃のこともあったし、あたし、一回めの告白は断ってるから、なんか今更本当はずっと好きだったって言うのも、あたしからはまだ伝えてなくて……」
「え!? お兄ちゃん一回振られてんの?」
思わず大きな声になってしまったあたしに雫が驚いて口元にしーっと人差し指を立てる。
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