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「一度めの時は、慎兄受験生だったし、受験が終わるまで考えさせてくださいって……伝えたの」
そう言えば──『受験が終わったら付き合おうって決めていた』お兄ちゃんがそんなことを言っていたのを思い出す。
そっか、その相手が雫だったんだ。
お兄ちゃんの彼女が雫で良かったと、あたしは心から思ってる。だから、不安になる雫なんて見たくないし、お兄ちゃんには雫が不安になっているよって教えてあげたい。二人がうまくいって欲しいって、今は本当に思う。
「雫、あたし、この世で一番雫のこと可愛いって思ってる! たぶん、お兄ちゃんも一緒……か、あたし以上かもしれない。だから、不安になんてならないで。あたし、雫のこと応援するから! 雫が幸せなら、あたしも幸せだもんっ」
「……優乃ぉ」
目元を潤ませて、雫はあたしに抱きついてくる。よしよしと艶っつやのストレートヘアを撫でてあげると、目的地の駅に着いて電車から降りた。
「なんでさっき抱きしめあってたの?」
すぐに怪訝な顔で兄が聞いてくるから、あたしは雫と顔を見合わせてから笑った。
「ひみつー」
「は? なんだよそれ。気になるなー」
「お兄ちゃん、雫と手繋いであげて」
あたしは雫から離れて二人の前に立つと、にっこり笑う。
戸惑う様に雫を見つめる兄に、雫がさっきと同じ照れた表情をしてそっと手を差し出す。
「今まで我慢させちゃってごめんね! 今日は思いっきりいちゃいちゃしてくださいっ! よし、行こうっ」
しっかり繋がれた二人の手を見て、あたしはきゅーんっとなる胸に手を当ててから、歩き出す。
「優乃、そっちじゃない」
行く先も分からずに進み出したあたしを引き止めたのは、イブちゃん。自然に繋がれた手に引っ張られて、振り返ったイブちゃんが「あっち」と笑う。
空は青く澄んでいて、太陽がキラキラとイブちゃんを輝かせるから、眩しさに目を細めた。
「優乃は俺といちゃいちゃしよーね」
そっと近づいてくると、イブちゃんが耳元で囁く。
太陽の熱のせいだ。イブちゃんの一言に爆発寸での所であたしの頭の中は思考が停止する。
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