→それは、恋。

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 駅からすぐのショッピングモールの中、雫が言っていた「期間限定・ふわふわ動物ふれあいコーナー」があって、そこで入場券を買うと隣のカフェ「ふわふわ」でドリンク一杯が無料になると説明された。  休日ともあって店内は人でいっぱいだ。動物ふれあいコーナーにも、小さい子供を連れた家族やカップルで賑わっている。 「優乃は動物触るの平気なの?」 「え……うーん……」  猫も犬も、金魚さえも飼ったことのないあたしは、動物に免疫がない。そっか、今からあの憧れのふわふわに触れるんだよね。 「悩みすぎ」  クスクスと笑うイブちゃんに、あたしは「触れるよぉ」と膨れる。 「そーいや、うち動物飼ったことないもんな」  兄が後ろから話に入ってくる。 「俺不安だなぁ。あんなちっちゃいの、握り潰しちゃったらどうしようって」 「え!?」  握り潰す……  あたしはとっさに最強悪魔の顔でひよこを握り締めるイブちゃんを想像してしまった。  いやいやいや、そこはうまいこと加減してくれ。  「次の方どうぞー」とスタッフさんに呼ばれて、あたしたちは横一列にベンチに座らせられる。  スタッフのお姉さんに膝の上に手を置く様に言われて、一人ずつひよこがそっと手渡される。 「優しーく、包み込む様にしてあげてくださいねーっ」  小さいふわふわが手元に置かれて、あたしは一気に母性が湧き上がった。  か、かわいいっ!!  ふわふわ……ふわっふわ……  手の中でピヨピヨと鳴くふわふわに、緊張して体全身に力が入ってしまう。 「お前、タンポポみたいだな」 「え……」 「いや、綿毛か?」  目の前にひよこを掲げて、イブちゃんが話しかけているから、なんだかその構図がかわいすぎてキュンとしてしまう。  ひよこはなんのこっちゃ? とつぶらな瞳でピヨピヨと鳴くばかり。 「あ? なんだ? 違うって言いてぇのか?」  眉を顰めてひよこをじっと睨むイブちゃんに、心なしかひよこが怯えている様にも見えてしまう。 「イブちゃん、ひよこと話してる……!?」  だけど、そんなイブちゃんの姿に驚いたあたしは、イブちゃんの隣に座るお兄ちゃんと雫にも視線を向けた。あたし同様に、二人も驚いた顔をしつつ、お兄ちゃんに至っては笑いを堪えて震えている。 「あ? なに笑ってんだよ、慎一郎」 「だって、伊吹……かわい……っ!」  堪えきれなくなって笑い出すお兄ちゃんに、イブちゃんは怒ろうにも手元のひよこに身動きが取れずにそのまま何も出来ずに固まってしまう。何だか本当に可愛く見えてきてしまって、あたしも雫も笑ってしまった。  ふわふわを思う存分堪能したあたしたちは、お姉さんにひよこをお返しすると、ホッと一息ついた。
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