→それは、恋。

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「ねぇ、優乃! 見て!」  雫がおいでと手招きするから、あたしは駆け寄る。  「ピヨピヨすくい」と書かれたクレーンゲームがある。機械の中にはふわふわのひよこのストラップがたくさん入っていた。 「かわいい!!」 「だよね! やってみようよ」 「やる!」  雫につられて何度か挑戦してみるけれど、あと一息のところでひよこちゃんはゲットならず。二人で悔しがって機械の中を覗き込んだ。  諦めようとして振り返ると、ぷらんっとあたしと雫の目の前に何かがぶら下がった。 「これ欲しかったんでしょ?」  目の前のものをよく見ると、今まであたし達が狙っていたひよこのストラップだ。 「え!! なんで?」 「あっちにも置いてたから、試しにやったら一発で取れた」  ニッと笑って、イブちゃんはあたしにひよこを差し出してくれる。 「すごーい」  雫が拍手をしてイブちゃんを褒めるから、なんだかあたしだけもらうのもなと、受け取るのを躊躇っていると、イブちゃんがニシシと笑う。 「慎一郎もっとすごいよ」 「え?」  雫が首を傾げた瞬間、お兄ちゃんがやって来た。 「なんか一回でめっちゃ掴んで、そのまま大量に取れたんだがっ!!」  興奮しながら近づいてきたお兄ちゃんの手には、ひよこストラップが五つもぶら下がっている。 「うわぁ! すごい!!」  すぐに雫がキラキラの瞳で兄に近づくと、差し出されたひよこを受け取ってから、一つずつ配り出した。 「ノーマルな黄色いひよこちゃんは慎兄で、白いひよこちゃんは優乃とおそろで伊吹先輩。あとは、ピンクのひよこちゃんを優乃にあげれば、ほらっ! ちょうど良いっ」  雫にそれぞれひよこのストラップを手渡されて、手元を見ると、あたしは白とピンクのひよこちゃん。イブちゃんは白のひよこちゃん。雫は黄色とピンクのひよこちゃん。お兄ちゃんは黄色のひよこちゃん。  雫の「ちょうど良い」の意味が伝わる。 「お揃いだぁ」 「でしょう?」  なんだか、なんでもないことなのに、雫とだっていつもお揃いのものを揃えて買っていたりするのに、今日の四人でのお揃いはいつもよりもすごく、特別で嬉しい気がする。 「なぁ、優乃」 「ん?」  嬉しくてひよこのストラップを眺めていたあたしに、お兄ちゃんが困ったような顔をしてくる。 「俺さ、雫と行きたいとこあるからここからは別行動でもいい?」 「え!?」  驚くあたしに、雫も「ごめん」と手を顔の前で合わせるから、ダメとは言えないし。しかたがなくあたしは頷いた。 「じゃあまたな」 「うん」  別れが名残惜しいけど、あたしは二人の後ろ姿を見送って小さなため息をついた。  まぁ、ひよこも触れたしストラップももらえたし。満足かな。 「じゃあ、俺らもデートの続き、楽しもうか?」 「……え?」 「優乃、喉乾かない? ほらこれ、無料ドリンク引き換えてこようよ」 「……あ」  さっきもらった入場券に付いているドリンク引換券を思い出す。イブちゃんがカフェに向かって歩き出すから、あたしも思わずついていく。  メニュー豊富なドリンクの中からあたしは期間限定の「ストロベリーショートケーキ」、イブちゃんは「カフェオレ」を選ぶと、そのまま手に持ち歩き出す。 「俺も優乃を連れていきたいとこあるんだけど、付き合ってくれる?」 「……え」  ショッピングモールの出口に向かいつつ、イブちゃんが聞いてくるから、あたしは戸惑いつつも頷いた。
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