→あの日のイブちゃんのこと

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 歩きながら話すことは本当に他愛もないこと。「今日は人が多いな」とか、「空に雲ひとつないな」とか、「それ美味しい?」とか。  そんな何気ない普通の会話なのに、なんでだろう。心がウキウキしているような、ドキドキワクワクするような、イブちゃんと話していると、なんだってあたしは楽しいって思える気がする。  話に夢中になりすぎて、気が付けばいつの間にか目的地に着いていたようで、イブちゃんが足を止めた。 「……ここって……」  たどり着いた場所は、住宅地の中に昔からある公園。滑り台も遊具も新しいものに変わってしまっているけれど、懐かしさは変わらない。 「覚えてる? 優乃と慎一郎が、はじめて俺に話しかけてくれた公園」  あの頃はもっと広いと思っていた。  あたしの家より少し遠くにある公園。兄と一緒に探検だと言いながら、いつもの公園を飛び出してここまできたことがあった。あの時はまだ鉄のジャングルジムがあって、その中でしゃがみ込んで丸くなっていたイブちゃんと出会った。 「ジャングルジム、無くなっちゃってるね」  イブちゃんがいたあの場所は、今は何も置かれていない。 「優乃、俺さ……」  ゆっくり歩き出しながら、イブちゃんは話し出す。 「あの日、親に見捨てられてここに置き去りにされたんだ……って言ったら、信じる?」 「……え!?」  いきなり、とんでもないことを言い出すイブちゃんに、あたしは驚くしかない。  見捨てられ? 置き去り? え? 「ごめん、いきなり重いよな。正確には親戚の家に一時的に預けられたって感じかな」  ははっと他人事みたいに笑うから、なんだか信憑性に欠ける。 「俺全然馴染めなくてさー、親はここにいろって突き放すし、どうしたらいいか分からないし帰りたくなくてあの日、ここに居たんだ」  なんとなく、だけど、覚えている。  肩より少し長い髪。細くて華奢な手足。声をかけて振り返った瞳は、こちらを睨んでいるのに、なんだか怯えているようだった。
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