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聞いてはいけないことだったのかもしれない。触れてはいけないことに、触れてしまったのかもしれない。悪魔が降臨してしまったら、あたしはどうすることもできないーーー!
だらだらと冷や汗が流れてくる。身動きが取れずに、イブちゃんからも目を逸らすことが出来ない。
「優乃は、その噂と俺の言うこと、どっちを信じてくれる?」
「……え?」
鋭かった瞳が光を失って、眉間の皺もとれると、また寂しそうにイブちゃんは俯いた。
あたしは、噂は噂だって思ってる。だって、実際にイブちゃんが中学生の頃は、会ったことも見たこともないし、周りのみんなが好き勝手に言っている噂をただ聞いて知っていただけ。
あたしの知ってるイブちゃんは、確かに口は悪いし見た目も綺麗すぎて凄味があるけれど、笑うと本当に天使みたいに神々しい。
そして、ここ数日一緒にいて分かったことは、あの頃と何にも変わらないって言うこと。だから、あたしは噂よりも──
「……イブちゃんの言うことを信じるよ」
真っ直ぐに、イブちゃんの目を見て答える。すると、伏せていたイブちゃんの瞳があたしを捉えて、嬉しそうに微笑んだ。
「慎一郎と優乃だけだよ、俺のこと信じてくれるの」
ふわりと笑うイブちゃん。重苦しかった空気が、ほんの少し軽くなった。
「話しても良い? 俺のこと」
空いていたベンチに座って、イブちゃんは傾きかけた陽に目を細めた。木漏れ日が葉っぱの影からこぼれ落ちる。風に揺れて、キラキラと降り注いでくるように感じた。
イブちゃんがあたしに話してくれることは、きっととても大切なこと。だから、きちんと聞いてあげたいと思った。
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