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「校長とか上の方の先生は、理由を話して知ってるから、噂は聞き流してくれてたんだ。そしたらさ、女子には効果覿面。人気ある美術科の先生だったこともあって、かなり周りが静かになったんだよね」
悪戯に笑うイブちゃんに、少しだけ安心した。
あたしが知らないイブちゃんの過去がどんどん解き明かされていくのを聞いて、さっきから頭の中が混乱している。
「まぁ、だけど噂は尾鰭ついていくわな、あることないこと次から次へと。最初のうちは笑えておかしかったけど、だんだんと笑えなくもなってくるし、でも、自分で蒔いた種だから仕方ないって、今はその異名も否定はしないし、受け入れるしかないってわけ」
フッと笑ったイブちゃんは、やっぱり少し寂しげだ。
きっと、ずっとひとりぼっちで周りと戦って来たんだろうな。
一気に話してくれた、イブちゃんの中学校時代の異名が出来上がるまでの話に、「そうだったんだ」と納得はするけれど、なんだかあたしには次元が違いすぎて、よく分からない。
そして、あたしはそんなイブちゃんにどうしてあげたら良いのか。悩む。
あ、まただ。この前と同じ。
〝どうしてあげたら〟って考えるよりも、あたしは〝どうしたいんだろう〟って、考えてみる。
「あたしはね、イブちゃんが天使だろうが悪魔だろうが、イブちゃんはイブちゃんって思ってるよ。だから、寂しい顔しないで」
やっぱり少し、心配になってしまう。
今思えば、小さい頃からイブちゃんは何に対しても少し怒っていた。言葉遣いが悪いのは、きっと不安だったからかもしれない。
あたしだって、お兄ちゃんが離れてしまって、彼女を作ってあたしを邪魔者だと思ったんじゃないかって感じた時、すごく不安で寂しくて、悲しかった。
度合いは全然違うかもしれないけれど、もしかしたら、おんなじ様に不安だったのかもしれない。
今、イブちゃんが寂しそうに笑うのは、きっと不安だからだ。
「大丈夫だよ、イブちゃん。あたしもお兄ちゃんも、イブちゃんの味方だよ」
そう。誰かが味方でいてくれるって心強いんだ。
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