→あの日のイブちゃんのこと

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*  あれから、イブちゃんはまた他愛のない話をポツポツと話し始めて、あたしもそれに頷いて聞いていた。徐々に傾いていく夕陽が落ちて、辺りが薄暗くなると、ようやくベンチから立ち上がった。そして、ゆっくりゆっくり、帰り道を辿りだす。  河川敷を歩いていると、前の方にピッタリと寄り添って歩く、見覚えある後ろ姿を見つけた。 「あ、あれって、お兄ちゃんと雫じゃない?」  追いかければ一緒に帰れるかも!  嬉しくなって、あたしが駆け出そうとすると、腕を掴まれて止められた。 「イブちゃん?」 「これ、見て。優乃」 「ん?」  急に、プランっとあたしの目の前に、さっきお兄ちゃんが取ったひよこちゃんストラップがぶら下がる。あたしはイブちゃんを見て首を傾げた。 「ひよこ……? 二人と一緒に帰ろうよ」  あたしが振り返ろうとした瞬間、掴まれた腕を引かれて、そのままイブちゃんの胸の中に収まってしまう。 「え⁉︎ ちょ、イブちゃん⁉︎」  いきなり抱きしめられて、あたしはジタバタと抵抗する。耳元で「しぃーっ」と言われて、反射的にあたしはピタリと動きを止めて黙った。  なんでいきなりこんなことするの!? いや、今までもそうだったけど! だけど、なんだかあたしおかしいんだよ? 心臓が爆発しそうなくらいにうるさくって、耳まで一気に熱くって。    「優乃、慎一郎と親友のキスシーンなんか見たくないだろ?」  は!?  え? 今なんて? 「あいつらも堂々としてんなぁ」  呆れる様にため息を吐き出すイブちゃん。ポンポンっと優しくあたしの頭を撫でながら、振り向かせない様にしている。  確かに、お兄ちゃんに彼女が出来たことだけでもショックだったのに、さらに彼女とキス!? しかもその相手はあたしの親友の雫だし、それって、絶対に見たくないかも、しれない。  まさか、あたしの後ろで二人は……。  想像できないけど想像してしまって、あたしは困ってしまって俯いた。  そっか、あたしがショックを受けない様に、見えない様にしてくれたんだ。  なんか、やっぱりイブちゃんって、優しい。
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