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見えていないとはいえ、やっぱり少しはショックだ。なんだか、お兄ちゃんも雫も、あたしの遠いところへ行ってしまうみたいで。
「……そんなにへこむなよ。ほんと、慎一郎のこと好きだよな、優乃は」
もう行ったよ。と、イブちゃんがあたしから離れると歩き出す。
うん、あたしは、お兄ちゃんが大好き。ずっとずっと、お兄ちゃん一筋だった。意地悪する男の子は嫌いだし、近づいてくる男の子にだってゾワゾワした。
それなのに、なんでだろう。
イブちゃんは、何か違う気がする。
家の前まで来ると、イブちゃんは「またな」と言ってあたしの頭を撫でてくれた。
もう、触れられることが嫌だとは思わない。イブちゃんなら平気だし、大丈夫。
むしろ──
手を振って踵を返すイブちゃんの背中、ゆっくり遠くなっていって、振り返ってまた手を振る笑顔に胸がギュッと苦しくなる。
今まで感じたことのない気持ちが、あたしの中で花開く。
もう今日は終わり? もっと話していたい、もっと、笑う顔が見たい、明日が来るまで会えないなんて、なんだか淋しい……
苦しくなる胸に手を当てて、あたしはハッとした。
『今日一日伊吹先輩と過ごしてごらんよ。きっと、今よりもっと一緒にいたいって思うはずだよ。帰り際に淋しく思ったりとか』
雫に言われた言葉を思い出す。本当だ。雫の言う通りに、なっちゃっている。
姿が見えなくなった道の向こうを見つめて、イブちゃんの笑顔を思い出す。
ポケットに入れていたスマホが震えた。
取り出して見ると、イブちゃんからのメッセージが届いていた。
》優乃明日の朝早く迎え行くから。学校まで送ってく。早起きできるかー?
ニヤリとした顔スタンプに、思わず笑ってしまう。
《早起きは得意ですから
えっへんと自信たっぷりな顔のウサギスタンプを添える。すると、すぐにオッケーとスタンプが返って来た。
ウキウキで玄関のドアを開けて、リビングのソファーにダイブした。
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