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→只野の意地悪
*
翌朝、早起きをして学校の準備を済ませると、洗面台の前で何度も髪型や顔、制服のリボンを直す。おかしいところはないかなと、いつも以上に念入りに見てしまうのは、やっぱり何かあたしの中で変わったからかもしれない。
イブちゃんと会えるのが楽しみすぎて、昨日はなかなか寝付けなかったから、目を閉じると、なぜかイブちゃんの微笑む顔が暗闇からキラキラと浮かび上がって来て、一気に脳が目覚めてしまって眠れなかった。じっくり鏡の中の自分の顔と睨めっこして、目の下にクマが出来ていないか確認する。
「優乃ー、迎え来たぞー」
兄の呼ぶ声にドキッとする。
この気持ちのままイブちゃんに会うのは不安だけど、鏡の中では嬉しさが隠せずにニマニマしてしまっている自分がいることに気が付いて、首を左右に振った。
「よしっ」
気合いを入れるようにそう言って、あたしは玄関を目指す。イブちゃんに嬉しいって顔を気づかれない様にしないと。
一歩外に出て、お兄ちゃんと話していたイブちゃんがあたしに気がついて軽く手を挙げると「おはよう、優乃」と笑ってくれるから、一気に心臓が飛び出てくるんじゃないかと思うほどに波打つ。
「お、おは、おはようっ」
あれ?おかしいな。あたし、このままじゃ死んじゃうかも。
バクバクし出した胸を抑えて、ゆっくり兄の背中に回り込む。
「ん? どした? 優乃」
兄が怪訝そうにあたしに聞くけど、なにも答えなどない。
まともにイブちゃんの顔が見れなくなってしまっているだけだ。
「じゃあ、伊吹。優乃のことよろしくな」
「おう」
そんな二人の会話が聞こえたと思ったら、兄が手を振り反対方向へと行ってしまった。
「行こうか、優乃」
イブちゃんの声がいつになく優しく甘ったるく聞こえるのは気のせいだろうか?
「い、イブちゃん、学校!」
「……ん?」
俯いたままのあたしに近づくイブちゃんに、あたしは少し後ずさって聞く。
「学校、反対方向なのに……いいの?」
「え?」
拍子抜けした様な声を出すイブちゃんに、あたしはますます俯く。
お兄ちゃんと一緒に向かえばすぐなのに、あたしを中学校まで送っていったら電車だって遅れちゃうし、そもそも駅だって全く反対方向だし、早めの時間に出て来たとは言え、イブちゃんには迷惑なんじゃ。
頭の中で色んなことを考えていると、ふわりと頭を撫でる大きな手。
「なに? 優乃。俺の心配してくれてんの?」
「え……あ、いや」
まぁ、そうかもしれない。イブちゃんにとってみれば遅刻とかズル休みとか、なんてことないことかもしれないけど、それでも、周りのイブちゃんへの印象が悪くなるのはなんだか嫌な気がする。
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