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→通り過ぎて沼
靴を履き替えて外に出てから、一度立ち止まる。走って来たから、風で乱れた前髪を手櫛で整えた。肩にかけたカバンも、もう一度掛け直して、制服の裾も整える。
なんだか、イブちゃんに会えると思うと、変なところがあったら嫌だな、なんて思ってしまう。 そんなこと、今まで気にしたこともなかったのに。それに──
さっき只野から取り返して来た写真を、一枚そっとカバンから取り出して眺めた。
本当に美人だし、綺麗な大人の先生。イブちゃんと並んで写っていても違和感がないし、なんだかドラマのワンシーンみたいに美しい。
あたしがこの立場だったら、絶対にコントにしか見えないよね。
はぁ、とため息が溢れてしまう。
イブちゃん、この先生のこと、好きだったのかなぁ。
先ほど見せられた動画が頭の中で再生される。抱き合った二人が倒れ込んでどうなったのかなんて、あたしには想像も出来ない。
だけど、なんだろう。胸の奥がぎゅううって、締め付けるみたいに苦しいんだ。
もし、まだイブちゃんが先生のことを想っているなら、あたしに言ってくれてる好きって言葉は嘘になる。イブちゃんは嘘なんてつかない。だから、きっと真っ直ぐなあの言葉は、本当なんだって信じたい。
胸が苦しいくらいに締め付けられるのは、あたしもイブちゃんに、恋しているからなんだろうか。やっぱり……やっぱり、まだよく分かんないよ。
ただ、今はイブちゃんのことを知りたいって思う。イブちゃんのそばにいるのが楽しいって思う。頭の中全部、イブちゃんの事ばかり考えてしまう。
これって、もしまだ恋じゃなければ、どういうことなんだろう。
悩んでいるとスマホが急に震え出して、あたしは驚いた。慌てて写真をカバンに突っ込んでから、画面を見た。
》優乃遅いけど大丈夫か? さっき雫ちゃんに先生に呼ばれてるって聞いたから、大丈夫だろうけど心配。待ってるから終わったら連絡して。
イブちゃんからのメッセージ。
あたしのこと、心配してくれてる。
待ってくれている間、きっとイブちゃんはあたしのことを考えてくれているんだ。
あたしの頭の中、イブちゃんでいっぱいなんだけど、もしかしたら、イブちゃんもあたしのことで頭の中がいっぱいなのかな?
だったら、それって、嬉しい。
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