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「只野の友達が撮ったっていう動画を見ちゃって……」
「はぁ? なんだよそれ」
眉間に寄った皺。怒ってる表情のイブちゃんは怖い。視線を外して俯いたあたしは、イブちゃんが小さくため息を吐き出したのが聞こえた。
「ねぇ、優乃、俺のこと信じられない?」
近づくイブちゃんのスニーカーがあたしの俯いた視界に入った。
「……俺が好きなのは、優乃だけだって、どうしたらわかってくれる?」
不安そうに揺れる声。いつもの堂々としていて、凄みがあるイブちゃんじゃない。全然余裕があるように感じなくて、あたしはゆっくり顔をあげる。
あたしを見下ろすイブちゃんの顔は、なんだか今にも泣き出しそうで弱々しい。
だけど、真っ直ぐにあたしを捉える瞳はいつだって真剣だ。あたしも、そんな真っ直ぐなイブちゃんの気持ちに、ちゃんと応えたい。
キュッと体の脇に降りた両手を握りしめた。
「……あたしね、ずっとイブちゃんのこと考えてる」
「……え?」
「イブちゃんのこと考えると、胸がギューって苦しくなったり、ふわってあったかくなったり。なんだか、おかしいの。イブちゃんがあたしに真っ直ぐ好きって言ってくれるのが、嬉しい。先生とのこの写真とか動画を見て、イブちゃんはこの先生のことも好きなのかなぁって考えると、すごく辛いの……なんか、あたし、イブちゃんと一緒にいると気持ちが落ち着かなくて、変なんだよ……!」
泣きそうに涙腺が熱くなってくるけど、なんとか耐えて言い切った。潤んだ瞳でイブちゃんを見上げた瞬間、あたしはイブちゃんの胸の中に引き込まれてしっかり包まれた。
いつも突然なんだ。だけど、嫌じゃない。驚いて心臓がドキドキ高鳴っていく。イブちゃんにまで聞こえるんじゃないかと思うくらいにドキドキしてる。
「優乃、今ドキドキしてる?」
優しく聞かれて、あたしは何度も頷く。
「俺もだよ」
「……え」
イブちゃんがますます強く抱きしめるから、あたしは静かに目を閉じた。ドキドキと、あたしの高鳴りとは違う音が聞こえる。
もしかして、イブちゃんも、あたしと同じようにドキドキしてるの?
なんだか、そう思ったら嬉しくなる。
そっと、あたしもイブちゃんの背中に手を回して抱きしめてみる。
すると、心地良かった心音のリズムがどんどん早くなっていく。
恥ずかしくなってきてすぐに離れると、夕陽に照らされている顔が赤く見えた。
イブちゃんがそっと手を繋いでくれと、ゆっくり歩き出しながら、話し始めた。
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