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「あー……」
ガッカリと残念そうに眉を下げるイブちゃんの手元のたんぽぽは、一つだけ種を残していた。
「あ……」
残っちゃうんだ。
「あれ? 優乃ももしかしてがっかりしてる?」
ポイっと茎を投げ捨てると、イブちゃんが驚いた顔で近づいてくるから、あたしはそんな事はないと首を思い切り振った。
「優乃、好きだよ。俺と付き合って」
不意打ちで、イブちゃんはあたしの頬にチュッとキスをする。驚きすぎて、あたしは呆然としたまま立ち尽くして動けない。
「もう、優乃はほんと可愛い。そんな無防備だとここにもしちゃうよ?」
ふにっと唇を指さされて、あたしは一気に全身に血が昇っていくのを感じる。
「返事はゆっくりでいいよ。俺の気持ちは変わることないから」
また、余裕のある笑顔を浮かべて歩き出そうとするから、あたしはそんなイブちゃんの制服の裾を掴んで引き留めた。
「……き」
「ん?」
「あたしも、イブちゃんのこと好きだよ」
精一杯の気持ち。きっとこれがあたしの気持ちの答え。
全身に力が入りすぎて、血が煮立って、なんだか朦朧としてしまう。ふらついたあたしを、イブちゃんが倒れる前に抱き止めてくれる。
イブちゃんが美人なのは最初からだったのに、何でだろう、今はさらに上乗せでキラキラフィルターでもかかっているのかな? イブちゃんが王子様にしか見えなくて困ってしまう。
「とりあえず、帰って慎一郎に報告しよっか。たぶんそれからじゃないとキスもその先も許してもらえなさそう」
悪戯に笑うイブちゃんに、あたしは一気に現実に戻った。
キスもその先もって、なに!?
手を繋がれて歩き出すけど、あたしはぐるぐるといつまでも頭の中でたどり着くことのない答えを求めて彷徨っていた。
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