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あれから、お兄ちゃんにあたしはイブちゃんに恋をしたことを話した。
何故かお兄ちゃんは目をうるうるさせて「良かった、本当に良かった!」とあたしにじゃなく、イブちゃんに何度も何度も言っていた。
朝と放課後は一緒に登下校。
只野は会えばあいさつはするけれど、それ以上あたしに近づくこともなくなった。毎日がかなり清々しい。
そんなある日、学校が終わって待っていてくれているはずのイブちゃんを探す。
なかなか姿が見当たらなくて、諦めかけた瞬間、道ゆく人たちが「カッコいい」と連呼しながら通り過ぎてゆく視線の先に、文庫本を片手に車止めに寄りかかっている男の人が目に止まった。
耳に少しだけかかる黒髪、文字をなぞる目元にかからないくらいの前髪がさらりと揺れる。
きちんと締められたネクタイと背筋をまっすぐに姿勢のいい姿。
あの制服は、お兄ちゃんと同じ学校だ……あれ? もしかして!
「イブちゃん!?」
思わず大きめな声で叫んでしまうと、彼が気がついてこちらに視線をあげた。
「優乃、お疲れ様」
やっぱり!!
パタンと文庫本を閉じてにっこり微笑むのは、爽やかさ百パーセント超えのイブちゃんだった。
あたしは一気に駆け寄る。
「ど、どうしたの? 髪……」
「願いが叶ったから、切った」
「……願い?」
「うん。優乃と両想いになれたら切ろうってずっと願掛けしてたんだ。優乃が俺を好きって言ってくれて嬉しかった。これからは真面目に生きようかなって心入れ替えたの」
「……真面目に」
あたしは頭の先からつま先までを、つい見てしまう。
今までだってイブちゃんはかなりかっこよかったし、長い髪が妖艶さを醸し出していた。それが一変。色っぽさは残しつつ、爽やかな高校生へと変貌してしまうって、何事だろう。カッコいいどころではない。
どこまでイブちゃんが不良だったのかは計り知れないけれど、それよりもイブちゃんって、やっぱりきっとモテるよね……?
「あ? なんだよその目は。信用してないの?」
「え!? いや、そんなことは!」
鋭い眼光を向けられて体が飛び跳ねる。
爽やかさの中に凄みはまだ存在した。
「あー、早く来年ならないかな」
「え? どうして?」
「だって、俺、毎日優乃の周りに変なヤツが近づいてこないか気が気じゃないんだよ。一秒でも俺から離れてほしくない」
「……そ、そんな」
嬉しいこと、あたしだって思ってる。
ストレートに言葉にできてしまうイブちゃんに頬が熱くなる。
「なにかあったら必ず言えよ?」
「うん」
真面目になるなら、喧嘩とかはもうしてほしくないなぁ。心の中で思いながらも、あたしはこくこくと頷いた。
「今日は図書館? 優乃の家?」
「えーっと」
「それとも俺の家?」
爽やかに振り返ったイブちゃんがキラキラしていて眩しい。
「いや、まだそれは遠慮しておきます……」
丁寧に選択肢のイブちゃんの家はお断りする。だって、イブちゃんは高校入学と共に一人暮らしを始めていたみたいで。イブちゃんと二人きりとか、考えられなくて。
困ってしまったあたしに、クスクスと笑うから、意地悪だなと膨れる。
「慎一郎も今日は図書館行くって言ってたから、俺らもそうしよっか」
「うんっ」
受験生だと言うことを思い出したあたしは、雫と一緒に恋も勉強も両立させれるように頑張ろうって決めた。
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