誕生

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喫茶店の窓から通りを眺めている。 今、木から離れて落ちてゆく葉の着地点を、タクミは目で追っていた。 「やっぱり、あれは偶然だったのか。」 タクミは、喫茶店に入って、窓の外の街路樹の葉が落ちるのを何気なく見ていたのだが、見ていた葉の次に落ちた葉が、ひらひらと、空気の抵抗を感じながら、舞っていたのだが、今さっき落ちた葉の上に重なるように着地したのだ。 タクミは、こんな偶然があるものだろうかと不思議に思って、ずっと、葉の落ちるのを見ていたのだ。 「ひょっとしたら、あの2枚の葉は、誰も知らない何かの縁で繋がっているのかもしれないね。」 そんなことを考えていた。 さて、サンドイッチでも食べましょうか。 そう思った時だ、30才ぐらいのロングヘアーの女性が、タクミの隣の席に座ってきて、コツリと塩の小瓶を置いた。 「ひょっとして、塩を振り掛けたいんじゃないかなと思って。」 「えっ、どうして分ったの?というか、あなたは、誰ですか。」 「びっくりするよね。あたしも、声を掛けようか、どうしようか迷ったんですけど、ちょうど、サンドイッチを食べるところだったんで、確かめるために塩をマスターに借りてきたんです。」 タクミは、サンドイッチを食べる時は、必ず塩を振り掛けなきゃ、気が済まない性格と言うか、クセがあった。 でも、それを知っているのは、友人か、嫁のケイコだけだろう。 それにしても、誰なんだろうと、タクミは、今までに会ったことのある人なのだろうかと、思い出そうとしていた。 「念のために聞くけど、あなた、、、あ、タクミさんて言うんでしょ。あたしのことは、誰か解らないよね。そうだよね。」 「ええ、何処かで会ってるのかもしれないけれど、ごめんなさい。思い出せないんです。」 「だよね。でも、あたしは知ってるの。」 「どういう事?」 「ねえ、人間は生まれ変わるってことあると思う?実はね、あるのよ。それでさ、ほとんどの人は、生まれ変わる時に、前世の記憶が消えてしまうの。でも、何万人かにひとりとかの確率で、前世の記憶を持ったまま、生まれ変わる人がいるのよ。あたしも、そんなひとりなの。」 「生まれ変わり、、、。」 「それでさ、ビックリすると思うんだけど、あたし、前世であなたの奥さんだったんだよね。どう、ビックリした?」 「ええっ。そりゃ、ビックリするよ。っていうか、それ本当なの?何かの詐欺とかじゃないよね。」 「あはは。詐欺ってさ、あなたお金持ってるの?あなたを騙しても、何も得しないでしょ。」 「それは当たってるけど、ヒドイな。」 「そうだ、あなた、玉子は、カラザを取らなきゃ気が済まないでしょ。玉子焼きは、焦げたところが好きよね。カレーは、味を見る前にソースを掛ける。おでんは、くたくたになるまで煮込んだのが好き。どう?当たってるでしょ。」 「当たってるけど、、、。本当かな。」 「まだ疑ってるのね。だってさ、あなたがサンドイッチを食べる時に、塩振りかけるなんて誰が知ってると思う?」 「そりゃそうだね。」 そう答えたが、まだ、信じられない気持ちだった。 とはいうものの、話していて、安心できるというか、心地よいのは、やっぱり、前世で何かのつながりがあったのだろうか。 初めて会った気がしないのも事実だ。 「それで、今の奥さんとは、うまくやってるの?」 「どうして、結婚してるって知ってるの。」 「だって、調べたんだもん。前世の夫の事だから気になるでしょ。」 「なんか、怖いな。」 「あはは。どうしてよ。まさか、前世の夫を、あたしに返して―って、今の奥さんに詰め寄ったりすると思ってるの?」 「だって、調べるって。興味あるんだ、僕に。」 「それはそうよ。前の夫だもん。あたしもね、最近までは、あなたの事を忘れてたのよ。でも、偶然、この店で見かけて。それで、よくこの店に来るでしょ。だから、待ち伏せして、声かけたの。」 「で、どう思った?今の僕を見て。」 「安心した。幸せにやってるみたいだし。」 それが、そうでもないんだよねと、タクミは、思った。 「あれ、そうでもないみたいね。」 「いや、幸せだよ。でも、最近、ケイコは、何故か、怒りっぽくなってるんだよね。何かあると、不機嫌になるんだ。」 「ふーん。そうなんだ。」 「何か、僕に原因があるのかな。前世の僕は、どうだった?」 「気になる?あはは。それは、秘密にしといたげる。だって、それは、ヒドイ人だったもの。」 「ちょ、ちょっと待って。ヒドイ人って、どういうことなの。僕は、何をあなたにしたの。」 「ちょっと、意地悪な答えしちゃったかな。そうだ、さっき、あなたの嫁に、前世の夫を返してっていう冗談言ったでしょ。まあね、今は知らないけど、前世のあなたを取り戻そうとは思わないわ。ただ、懐かしくて、声を掛けただけ。」 「そんな風に言われると、ちょっと寂しい気もするな。それにしてもさ、ヒドイ人って、、、一体、何をしたの。」 「まあ、それは、忘れて。今のあなたは、今のあなたなんだし。でも、100万円くれたら、教えてあげてもいいかな。」 「それって、詐欺じゃん。」 「え、そうなの、詐欺なの?警察に連絡する?」 「するわけないでしょ。でも、気になるな。」 マリコと言うこの女性とは、何故か、話も弾んで、ランチタイムの1時間は、あっという間に終わった。 タクミとマリコは、連絡先を交換して、その場は別れたが、その後、3、4回、この喫茶店で会っていた。 そして、次第にマリコの魅力にとりつかれていった。 自分の事を解ってくれている。 そんな風に感じるのだ。 勿論、こんな風にマリコに会うのは、ケイコに対して、申し訳ない気持ちがあるのは事実なのだ。 ケイコを愛している。 その気持ちは変わらない。 「あのさあ。そんなにラーメン屋をやりたいんだったら、やればいいじゃん。」 「いや、だからさ、ケイコに、反対されたから、やめたんだよ。」 「それ、おかしいでしょ。」 「でも、夫婦って、結局、そういうことじゃないのかな。お互いに、夢があるでしょ。いや、夢じゃなくても、こういう生活がしたいなとか、些細な事でも、これが自分のスタイルだなと思うことがあるでしょ。でも、大概、夫婦って、別の方向を向いているよね。自分の夢が、相手にとっては、悪夢っていうこともある。ということはさ、どちらかが諦めなきゃいけないんだよ。どっちかがね。これは推測だけど、諦めた方が、愛が大きいのかもしれない。」 「ってことは、諦めたタクミさんの方が、ケイコさんより愛が大きいってこと言いたいのね。」 「そういうことになるか。」 「ケイコさんの愛は、こんなだったりして。」 マリコは、人差し指と親指で、米粒か、ゴマ粒を掴むような仕草を、顔の前でしてみせた。 マリコの目尻の下がった笑顔に、タクミは癒されているのを感じていた。 「でも、諦めるのが必要な夫婦って、そんなの結婚する意味ある?」 「どうなんだろう。一緒にいて、ホッとするというか、そういう安心かみたいなものはあるんだよ。でも、それと、諦めを天秤棒に掛けたら、、、諦めの方が重い気もするか。ほら、あそこにカップルがいるでしょ。仲良さそうだよね。というか、イチャイチャしすぎだよね。それに、女の子、結構可愛いし、、、何か、腹が立つな。ほら、彼女可愛いしさ。」 「いや、今はさ、女の子が可愛いことは、おいときなよ。」 「そうか。いや、可愛かったからさ、ちょっと悔しくなってさ。いやまあ、いいや。兎に角さ、あれだけ、イチャイチャしてるけど、これが結婚したら、あのカップルのどっちかが、夢を諦めることになるんだよ。僕には、あのカップルの未来が見える気がする。想像したら、可哀想だよ。」 「あ、ほんとだ。男の子の方が、熱心に話してるよね。あの男の子、将来、夢を諦めるのね。でも、ほら、あそこの熟年のカップルは、仲良さそうよ。」 「いや、あれは、お互いにお互いの夢を諦め尽くしたカップルだよ。夢なんて、ひとつじゃない。いろんな夢がある。お互いの小さな夢を、年を重ねるごとに、ひとつ、ひとつ、諦めていく。それで、諦めきった時、悟りのような境地が待っている。そんな感じじゃないかな。」 「悟りの境地ってさ、諦めからくるんだ。」 「そう思うな。」 「でもさ。タクミも諦めたかもしれないけど、ケイコさんも、何かを諦めてるんじゃない。お互い様かもね。」 「そうだね。ケイコは、何を諦めたのだろうか。」 「それも、解らない。タクミは、今まで、ケイコさんの何を見ていたの。」 言われれば、何を見ていたのだろう。 いや、誰だって、心に描くものを、他の人が見ることなんて出来ないさ。 ということは、死ぬまで相手を知ることはできないということだ。 それなら、一緒に暮らす意味があるのだろうか。 「ねえ。まだ、お店をやりたいって夢があるんだったら。あたし、1000万円ぐらいだったら出せるよ。あなたの夢、応援してあげる。」 「でもなあ。」 「自分で、自分に、鎖を巻き付けちゃダメでしょ。」 タクミは、こころが揺らいでいた。 或いは、マリコだけが、タクミの理解者なのかもしれないと思った。 ケイコより、マリコの方が、自分の事を理解してくれていると感じていたのである。 「ねえ。タクミ。あなた、ケイコさんと別れたら?」 「バカなことを言うなよ。僕は、ケイコを愛しているんだ。」 「ふーん。」 その後、1週間ぐらいは、ふたりは会うことがなかった。 会いたいと言う気持ちもあったが、少しばかり、気持ちの整理もしたかったからだ。 「久しぶりに、ドーナツ作ってるの。」 ケイコが、キッチンから、そう言ったように思えた。 「えっ。どうしたの。」 「だから、ドーナツ作ってるの。」 いや、そんな小さな声で言っても、隣の部屋の僕には、聞こえてないからね。 「玉子のカラザ取ってくれた?」 「あ、忘れた。」 いや、何年、一緒に暮らしてるんだ。 僕が、カラザが気持ち悪いって、何回も言ってるの知ってるよね。 「あのね。健康にいいかなって思って、焼きドーナツにしようと思ってるの。」 「あ、いや。ドーナツは、油で揚げなきゃでしょ。僕が、焼きドーナツは、好きじゃないって知ってるでしょ。」 「知ってるけど、、、、。」 どうして、こういう思考回路になるのだろうか。 わざわざ、僕の嫌いなものを、嫌いなやり方で作るんだろうね。 「でも、作ってるのあたしよ。あたしの好きなようにさせてくれてもいいんじゃない。」 「まあ、それはそうだけど。」 ああ、また、好きじゃない物を食べさせられるんだね。 いや、作ろうとしてくれてる気持ちは嬉しいよ。 「そうだ。ケイコ。やっぱり、ラーメン屋やりたいなって言ったら、ケイコどうする?」 「そういえば、そんなこと昔、言ってたね。あなた、諦めたって言ってたじゃない。」 それ、正確じゃないよ。 諦めたっていう言葉の前に、ケイコのためにとか、ケイコが反対したから、ってことば入れて欲しいな。 「うん。まあ、そうだね。」 やっぱり、ケイコは、僕の夢を理解していない。 だからと言って、ケイコを嫌いになる筈もない。 一緒に暮らすようになって、付き合いだした頃より、愛が深まっているのは、事実タクミは、そう感じていた。 愛おしいのである。 ケイコという人間は、他の誰とも替えることの出来ない存在だ。 ただ、傍にいて欲しい。 タクミが、1番愛しているのは、間違いなくケイコだった。 ケイコの心の奥底は見えないけれど、もし、ケイコが、僕の事を愛してくれているなら、それは奇蹟というものに違いない。 どんな人でも、人に愛されるということは、そうそうあるはずのものではないのだから。 このまま、ケイコに愛され続けるには、タクミは、諦め続けるしかないという考えが、漠然としたものから、確信のようなものに変わっていく。 ケイコのために、諦める人生を選択してもいい。 そんなことより、今は、ケイコの愛を失いたくない。 そう考えると、焦りのようなものがタクミを襲う。 その夜、タクミは、ケイコの寝顔を見ていた。 愛おしい。 無防備な姿が、ケイコのことを、哀れとさえ思わせる。 そんな感情が、タクミの胸に満ちていた。 その時、マリコからラインが入った。 「この前話してた駅前の店舗が来月空くそうよ。家賃、始めの半年は半額にしてくれるって言ってるわよ。」 タクミは、開業して、成功していくイメージで、頭がいっぱいになっていく。 ここに、タクミの1番の理解者がいる。 マリコだ。 そして、目の前に、タクミが1番愛している人がいる。 ケイコである。 その2つを天秤棒になんて掛けられないよ。 どっちも大切だもの。 でも、どちらか1つを選ぶとしたら、ケイコしかない。 愛より優先させるものは、何も無いはずだ。 だって、愛することも、愛されることも、奇蹟なのだから。 愛する者の為には、これからも、死ぬまで何かを諦めつづけないといけないのだろう。 ケイコのために諦め続けよう。 そして、1番の理解者がもたらしてくれた夢への階段は、忘れてしまおう。 そう決意したら、ケイコが愛おしくなって、その頬に触れてみた。 君は、どんな夢を捨てて来たのかい? その夢を捨てた時は、どんな気持ちだった? それは、僕の為に捨ててくれたのかい? そして、僕を、愛してくれているの? ごめんよ、結婚したのが、こんな僕で。 もっと、他に、夢も希望もある、、、いや、そうじゃない、君が活きいきと本当の自分を発揮できる選択肢もあっただろうに。 そう考えた時に、気が付いたら、タクミはケイコの首を絞めていた。 自分でも冷静でないと気が付いていたが、そうせずにはいられない衝動がタクミを動かしていた。 矛盾に満ちた行動だが、仕方が無かった。 「ケイコ。君の愛を失いたくない。今もし、僕のことを愛してくれているなら、ここで死んでくれ。そうすれば、この一瞬の愛が、永遠の愛に変わる。」 タクミを愛してくれている瞬間に死ねば、もう、ケイコの愛が冷めてしまう事も無い。 これこそ、永遠の愛じゃないか。 タクミは、興奮していた。 今まで、いろんなことを、僕の為に、諦めてさせて来たのかもしれない。 でも、もうこれからは諦める必要は無いんだ。 ただ、この1回だけ、生きると言う事だけ諦めてくれないか。 必死に抵抗するケイコの力が急に抜けて、頼りなげになる瞬間、クワッと目を見開いてタクミを見た。 タクミは、ゾッとしたが、これでケイコの愛は、永遠に自分のものだと思うと、安心を覚えていた。 タクミは、ケイコの死体を、ベッドに横たわらせて、口づけをした。 ありがとう。 そして、1時間後には、マリコと会っていた。 「えっ。本当にケイコさんを殺したの?」 「ああ。これで、ケイコの愛は、永遠に僕のものになった。だから、あとは、僕の夢を叶えるだけだよ。だから、マリコ、あの店舗の話、進めてくれないか。」 マリコは、その言葉には答えなかった。 「ふうん。やっぱり、あなたは、そういう人だったのね。でも、まさか、今生でも殺すとは思わなかった。」 「そう言う人だったって、どういうことなの。」 「あなたは、人殺しってことよ。根っからの殺人犯。」 「仕方なかったんだよ。でも、根っからのってことはないよ。」 「まだ、気が付いてないのね。あなた、前世で、あたしにヒドイことをしたって言ったでしょ。あなた、あたしを殺したのよ。結婚して1年で殺したよ。でも、殺した理由が解らなかったの。殺される瞬間まで、あたしたち、幸せな新婚生活を送ってるって思ってたんだもん。だから、この世であなたを見つけた時に、あなたと一緒にいれば、何故、あたしを殺したかの答えが見るかるかもしれないと思って、あなたに近づいたのよ。」 「僕が、マリコを、殺した、、、。何故、殺したんだろう。よっぽどの事が、殺さなきゃいけない理由があったのだろうか。」 「違うわ。今、解った。理由なんて無い。ただ、あなたは、人を殺したいだけの殺人狂なのよ。」 「ヒドイな。人を狂った人間みたいに言うんだね。」 「そうだ、思い出したわ。あなた、あたしの首を絞めてる時、笑ってたのよ。声には出してなかったけど、嬉しそうな目をしてた。思い出したら、ゾッとするわ。じゃ、あたしは、これから警察に届けに行くわね。前世で殺された妻の復讐だと諦めなさい。」 マリコは、公園のベンチを立って、駅の方に歩き出した。 何故、警察に行かなきゃいけないんだよ。 僕の人生は、これからじゃないか。 慌てて、タクミは、マリコを追いかけて、持っていたナイフで背中を刺した。 「ぐう。」という低い声をだして、マリコは倒れた。 「どうして、2回も、あなたに殺されなきゃいけないのよ。」 「だって、仕方がないじゃないか。」 「いい事教えてあげようか。ケイコさん、殺される瞬間に、あなたを見たんでしょ。だったら、あなたへの愛は、その瞬間に消滅したわよ。だって、自分を殺そうとしている人を愛する訳ないじゃない。永遠の愛を得たなんて言ってるけど、本当は、その時、愛を失ったのよ。残念でした。きっと、あなた、その時、笑ってたはずよ。あたしの時みたいにね。その時のあなたの顔、ケイコさん、あの世に行っても忘れないと思うわ。きっと、生まれ変わって、あなたに復讐するに違いないわ。」 「もう、そんなに僕の事を、バカにしたいのかい。でも、もう言わなくてもいいよ。」 タクミは、静かに、マリコの首の柔らかいところを撫でるようにして、締める前に、その温かさを感じていた。 「あんた、今、笑ってるよ。」 マリコは、最後の力を振り絞って、スマホで、タクミの顔を撮った。 そして、そのまま首を絞められて、息を引き取った。 マリコが動かなくなったのを確認して立ち上がる。 マリコの手に握られた足許のスマホを見ると、タクミの笑っている顔が写っている。 「ほんとだ、僕、笑ってるね。マリコの言う事は、いつも正しいね。」 でも、タクミのこころは、晴れやかだった。 理由は、タクミにも分からなかったが、全てのものから解放された気分だった。 秋の終わりの冷たさを帯びた風が、タクミのシャツの中に吹き込んでくる。 花壇に植えられた名前の知らない花の、児童公園には似合わない妖艶な香りが漂っている。 ケイコを殺した理由? もう忘れてしまったよ。 マリコを殺した理由? 仕方が無かったんだ。 そんな問いを発するのはナンセンスだよ。 こころは、歓喜に満ち溢れていたのである。 タクミは、目を閉じた。 そして、ベートーベンの交響曲第9番ニ短調作品125をハミングしながら、指揮者になって、手を動かしていた。 世界は、自分によって動いていると確信しているかのように。 タクミと言う今生の殺人鬼の誕生である。
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