ふたりで花見を

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ふたりで花見を

 住む世界が違う。というのも好きな相手は顔よし、運動よし、頭よしの三拍子揃った天に二物も三持も与えられた人間だったのだ。話したのだって片手で数えられる回数しかない。 「鈴木って気がきくよな」 「そ、そう?」 「おう。このプリントだってホチキス留めしやすいようにまとめといてくれてるんだろ?ありがとう」 「うん、こちらこそ」  悲しいかな最近の会話はこれだけ。 放課後委員会の仕事を二人きりだなんてときめくシュチュエーションではあるし気持ちを知っている友人からトークアプリで問い詰められたりしたのだがなにもなかったのが結論で、なぜかがっかりされたのを覚えている。  なにもないまま、卒業の日を迎えてしまった。断られてもいいから、好きって告白しておけばよかったかな。卒業式と卒業式に付随する行事が終わってあとはもう帰るだけだ。 「ナオ、(たか)木まだいるよ」 「うん」  髙木は教卓のあたりで男女に囲まれていて近づけそうにない、ナオは下をむいた。 「いいよ」 「いいって……髙木に告白しなくていいの?」 「うん」  髙木がいるのは同じ教室内のはずなのに、どうしようもなく遠い。 住む世界が違う人間に、告白して断られて傷つくくらいならクラスメイトの一人として忘れられてしまったほうがいい。さっきまでナオの中にあったはずの断られてもいいから告白しようという気持ちはなくなっていた。 「お父さんとお母さん待ってるから先に帰るね」 「え、うん」  普通は卒業記念に遊ぶのだろうけどナオはそんな気分にはなれなかった。心配そうな友達と後日遊ぶ約束だけして教室を出る。 両親が卒業式の後一足先に家に戻って待っていてくれているのを告白しない口実にしてしまった。咲き初めの桜が風に揺れる、まだ大半の卒業生がクラスにいるのだろう、人通りは全くない。  今年も一人だけの花見になりそう。本当にいっしょに見たい人とは桜を見られない。新学期から髙木が進学する大学とナオが進学する大学は違うので離れ離れになるんだなと思うと胸のあたりがぎゅっとなった。 「──き、鈴木!」 「えっ?」  振り向けば髙木が走ってくる。ナオは足を止めてスクールバッグの紐を握りしめた。 「髙木君」 「……っ、悪い、帰るところなのに」 「いいけど、どうし」 「花びら、髪についてる」  まだ息を弾ませた髙木がナオの髪についた花弁をとってくれる。 「ありがとう」  まさかこのためだけに走ってきたのだろうか?ナオが髙木の汗と制汗剤が混ざった匂いにどきどきしていると髙木が息をつく。 「俺がこのためだけに走ってきたと思ってる?ていうか、いつの間にかいなくなっててびっくりした」 「それは、えっと、ごめん」 「だめ」 「髙木君?」 「髙木じゃなくコウキ。名前で呼んで、それと付き合ってくれないと許さないから」 「……本気?」 「本気」  髙木は髪をかき混ぜる。 「あー、くっそ、もっといい感じに告白するはずだったのに……委員会の時も緊張してうまく話せないし俺ダサすぎ」 「髙、コウキ君は、もっとかわいい女の子が好きだと思ってた」 ようやく実感してきたナオが呟くと髙木は首を傾げた。 「かわいいだろ?俺はナオが一番好きだしかわいいよ。 お前がいなきゃ誰かをこんなに好きになることなんてなかった」  一番かわいい。髙木の言葉にナオは赤くなった。 「な、目閉じて」 髙木の言葉に目を閉じて、重なった二人の姿は花吹雪が隠してくれる。離れ離れになっても心は離れないでいられるだろう。今年の花見は、一人でしなくてもよさそうかもしれない。
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