点Pと点Mの消失

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 こどもたちのはしゃぐ声で、ふと目を覚ました。どうやら掃除を終わらせた後、居眠りしてしまったらしい。肩には煙草臭いジャケットがかけられていた。  外に出ると、潮の香りが漂う風が通り抜けていく。背の高い木々の合間を歩けばもう海が見える。  そこでは今日も夫がこどもたちに勉強を教えていた。彼らの前だと『良き先生』の顔をするのだ。好いた男を掻っ攫う為、愛する人も自分さえも消した男とは思えないほど、爽やかな笑みを浮かべている。  長方形ABCDから抜け出した点Pと点Mは、誰も知らない場所まで移動した。彼らの行き先は誰も計算できない。 「守、俺ちょっと出かけてくるね」 「ああ、いってらっしゃい」 「いってきま〜す」  誰も手の届かない自分たちだけの楽園だ。
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