巡り続ける

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 中出君と一緒にいた羽鳥君は、あからさまに嫌な顔をして 「はぁ? なんでこんな奴いれんだよ。絶対嫌だ」 と口にしたのだ。  その瞬間、私の顔から笑顔が消え、消沈する。  まぁそれも当然だし、そもそも羽鳥君は当時私が特に嫌っていた同級生の一人だ。  今でいえばスネ夫のような感じの子で、お世辞にも当時の彼は良い奴とは言えないような子だった。  当然自分も羽鳥君の事を言えるような良い子ではなく、むしろ人に暴力を振るっていたと思えば、むしろ羽鳥君よりも悪い子供だ。  それに比べれば、少なくとも友達と一緒に遊べている羽鳥君の方がまだ私よりマシだったかもしれない。  そんな中、その羽鳥君の言葉を聞いた中出君は、突然物凄い勢いで怒り始めた。 「だったらお前が抜けろよ、羽鳥。じゃあ一緒に遊ぼうぜ〇タン」  〇タンといつの間にかあだ名呼びされた私は驚く。  いやそれ以前に、自分の事を嫌っていた私をそんな風に仲間に入れようとし、更にはそれに対して冷たい言葉を口にした羽鳥君に対するその言葉に驚きを隠せなかった。  と同時に、私はなんとも言えない気持ちになる。  自分を仲間に入れると認めてくれただけではなく、その優しい怒りの言葉に子供ながら心が震えた。  羽鳥君はそれでも嫌そうな顔を続けるも、流石にここで仲間外れにされるのは嫌だったのか、そのまま「わかったよ」と言ってそれ以上何も言わなくなる。  そして中出君の相方とも言える田中君は、中出君と羽鳥君のやり取りには特に何も言わず、ただボールを私に向けて蹴ってきた。  その顔は笑顔であり、何も口にしなくとも仲間に入れるのを認めてくれたとわかった私は、田中君の優しさにも感謝する。  これが私が友達から受けた初めての優しさ、そして、恩というのを感じた初めての出来事だったと思う。
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