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「有給消化ってことは明日ヒマ?」
「うん」
「だったらどっか出かけねーか?午後からの仕事が飛んでヒマなんだ」
うつむきながらも、上目遣いで私を見る目は真剣で……淳介の気迫に圧されて、目が合わせられない。
「……考えとく」
その言葉を絞り出すのが精一杯だった。
淳介が帰っても何も考えられずに、玄関に座り込んでぼーっとしていた。
"結婚"なんて今まで考えたことがない。
ただ何となく、この先もずっと一人で生きていくのだと思っていたから。
(ぎゃっ!びっくりした……)
いきなり家電のベルが鳴り驚く。
慌ててリビングに駆け込むと、ナンバーディスプレイには淳介の家の番号が表示されていた。
恐る恐る、受話器を取る。
「もしもし?」
『紫緒音、携帯鳴らしたんだけど?』
「あ、ごめん」
『まあいい。明日だけど俺隣の市で仕事が終わんだけど……』
どうしても淳介の声がさっきの出来事を思い出させる。あの淳介の頭が脳裏にこびりついて離れない。
『聞いてる?!』
「あ、ごめん……」
『だから稲荷寺みらい公園行かないか?』
「あぁ、あそこ?」
『あの近くの現場終わったら上がっていいってさ。多分二時には終わるから集合は……」
「待ってメモるから!」
畳み掛けるように話すので、慌ててメモ用紙を用意する。淳介は待ち合わせのことだけ伝えると、いつものようにプツリと電話を切った。
「『二時、稲荷寺みらい公園、公園正面口の門前』っと」
書き残したメモは、冷蔵庫にペタンと張り付けておくことにした。
今後の売却予定の書類と一緒に。
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