たった二人の家族だった

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そして駅に着くと、今日も自転車を飛ばして家に帰る。 徒歩でも十五分の道のりで平坦な道なので、そこまでキツくはない。むしろ通勤は唯一の運動になっているだろう。 だって休日は──殆ど家から出ない生活をしているからだ。 今日もまた、車が家の前に停められていて、玄関には電気が付いている。 私は玄関の引戸を開けて、勢いよく「ただいま」と叫んだ。 「おかえり」 彼が暖簾の奥から顔を出す。 ふふっと微笑む口元も、細める優しい目元も、顔のパーツの全てが整っていて美しい。 おまけに見上げるほどの高い身長にほんのりと薄茶色に揺れる髪は、どこぞのモデルにも負けてないと断言できる。 そして彼の腕には……あの週刊誌の写真と同じ、ブレスレットが輝いている。 ──それは私があげた、ブレスレットだ。 「これ食べる?新発売のチョコ」 「もう夕飯前なの!」 「いいじゃん、うまいよ」 彼が座って手招きするので、仕方なく私も隣に座る。 はいと差し出されたチョコを摘まもうとしたけれど──彼は私の口に直接放り込む。 「ね、美味しいでしょ?」 ちょっとヤメロと叫びたかったが、彼はあまりに綺麗に笑うものだから……何も言えなくなってしまう。 口に広がる甘さより、ずっと甘い顔を向けられると、逆に悲しくなってくる。 当たり前だけど、この顔を向けているのは──私だけじゃないんだなぁと思うから。 ふとテーブルを見ると、コンビニの袋にはいつもの通り大量のお菓子。恐らく食後に二人で食べるためのもの。 それと一冊の雑誌──恐らくさっき見たあの週刊誌が、袋の上から少しだけ顔を出していた。
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