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そして五分もしないうちに家の前に到着し、車が止まった。
「上がってく?」
「いいよ。お供え物持ってねぇし」
上がらないと言ったのに、なぜか淳介も車から降りてきた。家の鍵を開ける私を、じっと見ている。
「……あんさぁ」
「何?」
「紫緒音はいつまで侑軌と居る気だったんだ?」
「うーん、大学卒業するぐらいまでかなあって。だからそういう時期が来たんだと思って欲しいのよ」
確かに父が死んだ当初は、侑軌をちゃんと大学を卒業させるまで面倒を見る!と意気込んでいた。
その後はきっと私の出番はないだろうから、好きに生きてて欲しい。でもたまに連絡くれるといいかなぁぐらいの気持ちだった。
「紫緒音」
「何?」
「俺と結婚しないか?」
「へっ?」
言ってることが理解できずに鍵を落とす。
カンと響く金属音で我に返った。
「何言ってんの?」
「紫緒音がまだここで暮らしてもいいって気持ちがあるなら、俺が支えるから」
「そんないきなり……」
「俺はここで結婚して家庭を築くつもり。そろそろ結婚を考えてる。それだったら相手は紫緒音がいい。めんどくさいことも俺は知ってるし、その上で申し込んでる。それだけの話だ」
何の冗談かとは思ったが……淳介の顔は至って真剣で。
だからこそ何も言えなくて、気の効いた言葉も思い浮かばない。
淳介はふぅーと大きく息を吐くと、また髪の毛を掻きむしっている。
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