悪くはない未来図

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悪くはない未来図

翌日のお昼過ぎ。 私は昼食を取ると電車に乗った。平日の昼間の車内には全く人がおらず、何だか少し寂しい気分になる。 そしていつもは通勤で通過するだけの駅、稲荷寺の駅で下車。いつも車窓からは見ているけれど、実際に降りるのは久しぶりだ。 (いつぶりかな?) 小学生の頃にはたまに、近所の五、六家族のグループで電車に乗って出かけることがあった。多分この時の私は全く車に乗れなかったから、皆気を遣ってくれていたのだろう。 そのグループのメンバーは、進学でここを出て行ったのが半分以上。その後親も引っ越したので全く繋がりがなくなった人もいるし、この仲間内で授かり婚をして離婚していったペアもいるので、集まる機会は全く無い。みんなバラバラになってしまった。 だから私と淳介だけが、ずっとここに残っているという感じだった。 最寄の駅から十分ほど歩けば、フェンスに囲まれた野球場が見えてくる。 この奥が公園の入り口になっていて、しばらく歩くと外野席の向こうにアーチ状の正門が見えてきた。 (うーん、変わらないなぁ) 野球場は新しくなったけど、公園の入り口の佇まいは全くといっていい程変わらない。懐かしい風景だ。 この公園には色々な思い出がある。 いつも少し遠出をすると言えばここで、特に中の小さな遊園地は子供が遊ぶのにうってつけでよく訪れていた。 ──そして私と侑軌が初めて会った場所もここだった。 『はじめまして紫緒音ちゃん』 アーチの門の下、綺麗な女の人が私に微笑むので、ぽーっと見とれてしまった。奥に隠れている侑軌に気付いたのは少し後。
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