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私は弟ができるのをすごく喜んだ。
侑軌は何度かママと一緒に会ったことがあるけれど、女の子みたいに可愛くて……白い肌にくるんと大きな目が人形のようで、笑う顔がすごく可愛かったから可愛がりたくて仕方なかった。
そして何よりも、家族ができることが嬉しかった。
時には父の作業が深夜まで続くので、私は夜に一人で寝ることが多かった。だからもう一人じゃないことが嬉しかったのだ。
──だけどその幸せも長くは続かなかった。
私が中学に上がった頃、次はママが事故で亡くなった。
父は二人も妻を亡くしたことで意気消沈し、毎日酒に浸るようになった。最低限は働いていたようだが、それ以外は何もできない。だから私が侑軌を育てる決意をした。ママの代わりに、必死に侑軌の世話に明け暮れた。
そして酒に溺れた父は、肝臓に異常をきたしぽっくりと亡くなった。私は高校一年生。侑軌はまだ中学二年生だった。
天涯孤独になった私達だったけれど、工房を父のお弟子さんに売ったお金で、何とか今後の生活の見通しはついていた。私も一応着付け師の手伝いもしていて相場よりちょっと高いアルバイト代を稼いでいたので、侑軌は問題なく高校に行かせられる見積りで……恐らく地元の大学なら進学費用を出せるだろう。そう思っていた。
だが侑軌は、そんな計算を全てひっくり返した。
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