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「いや、これは侑軌が持ってて」
私はそのまま通帳を突き返した。
「このお金があれば好きな大学に行けるでしょ?私のことはいいから好きな所に行きなよ。大学は行くべきよ」
そう納得させて……いや納得いかない侑軌ととことん話し合って、通帳はちゃんと自分で管理することと、大学に進学するまではお金を入れなくてもいいという約束に終わった。
だから侑軌からはお金を取っていないけれど──それでも気付けば家中の日用品のストックは増えてるし、冷蔵庫にはいつも食材が勝手に入ってる。ポストに届く請求書の類いも、勝手に支払われていていつも事後報告。
だから私が出す生活費はごくわずかだった。
そしてその頃、彼が私の身長を追い抜いた。
それは立場の逆転を意味しているようだった。
だからみんな私が弟を育てたと言っているけれど、そうではない。
ある意味私はずっと、弟に養われていたのだ。
そして私は高校を卒業後すると、侑軌の勧めもあり地元から通える短大に進学して、短大卒業後も同じく地元から通える場所に就職した。特に家を出る理由がなかったからだ。
侑軌は私が猛烈に勧めたこともあり、東京の有名大学に進学した。当然侑軌は家を出て、東京で一人暮らしを始めた。
だから侑軌が家を出たのは十八歳の頃。もう保護者として私の出番は無い年齢だ。
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