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夕乃は、鈴乃の家に着くとおそるおそるインターホンを鳴らした。チャイムの音がいつも以上に長く低く響ていていると思っていた。その待っている時間は、この扉が開くことはないのではないかという不安を与えた。
それから、しばらくすると自然と扉が開いたように夕乃には見えていた。全く人の気配がないのに扉が開いていく光景はなんだかとても恐ろしいことのように夕乃は思っていた。心霊的にもこわいことだったが、それ以上に自分の立てた仮説の裏付けをされているようで、それがより恐ろしいことだった。夕乃の直感は、そこに鈴乃がいると訴えかけた。夕乃はそれを受け入れたくなかった。信じたくなかった。
夕乃は、それがすぐに現実のことであると教えられた。
「どうしたの。夕乃ちゃん。」
「あの。鈴乃さんは、どちらにいますか。」
「なに言っての。ここに居るでしょ。」
と鈴乃の母が言った。
夕乃は、その言葉の強い圧力を感じた。それは、娘のことを認識することができていない私に対するとても強い怒りと不安、そして私に対する拒絶があるように感じられた。
「そうですよね。ここに居ますよね。」
と言って夕乃は何もない空間をつかんだ。
「やっぱり、あなたもそうなのね。鈴乃は、ここよ。」
と鈴乃の母は娘の肩に手を置いて言った。
夕乃は、絶対にやってはいけなかったことをしてしまったと心の底から後悔した。それでも、ここでそのまま帰ることができないと思った。だから、すべてを正直に話すことにした。
「すみません。私の目がいけないのだと思うのですが、鈴乃さんの姿をみることが出来なくなったんです。私の誕生会に途中から見えなくなってしまったと思っています。私は、その理由が知りたくてここまで来たんです。あなたもと言うことは、他にもいるのですか。もしよろしければ教えてください。」
と夕乃は懇願した。
「ごめんなさいね。最近理不尽なことばかりであなたに強くあたり過ぎたわ。けれど、私も分からないの。どうしてそうなったのかわからないの。」
「私の方こそ、ごめんなさい。最初から正直に話していれば、」
「そんなことどうでもいいのよ。あなたが正直に最初から、話してくれたとしても私はあなたに怒っていたわ。」
と鈴乃の母は言った。
「そうですよね。あのここの写真をとらしてもらってもいいですか。」
「もちろんよ。」
夕乃は、鈴乃の玄関で数百枚の写真をスマホで撮影した。
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