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夕乃は、結局家には帰らないでそのまま電車に乗り込んだ。きっと鈴乃の母は、自分の母にさっきのことを話すだろうと夕乃は思った。けれど、帰るわけにはいかなかった。そこに帰って親に顔を見せれば、夕乃がここに居たと証明になったしまう気がした。夕乃は、それをよしとしなかった。
電車に乗ってしばらくは、さっき撮った写真をただ見つめていた。なにも考えずにただその写真を眺めていた。その写真すべてに、いないはずの鈴乃が写っていた。それは、とても悲しいことだった。夕乃は、友達の鈴乃が見えなくなってしまった。そしてここに写っているということは、すべての会話を聞いていたということだった。夕乃は、どうするのが正しいのかわからなくなっていた。自分のしたことが、傷つけてしまった。その責任は重く重く圧し掛かった。夕乃は、「ごめんね。」とだけメッセージを送るとスマートフォンの電源を落とした。
そして電車の窓から見える景色をただ一心に眺めていた。特になにも考えることが出来なくてただ眺めていることしかできなかった。
夕乃には、もしかしたら、もしかしたら、いくつもの考えが浮かぶ。その考えはとてもかなしくもので何も言えなくなるものだった。だから、夕乃はそれがちがう、間違っていると頭の中で反証しようとする。けれど、反証することが出来なくて、考えることから逃げてしまった。
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