第1章 消えていく日常

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 夕乃と鈴乃の二人は、それから20分ほどしてから高校に着いた。二人は、まず校舎を眺めた。夕乃にとっては、三年間通った思い出の校舎だった。普段は、気にしなくても最後だと思うと、思わず立ち止まってしまった。鈴乃は、この学校に思い入れがあるわけではなかった。けれど、幼いころからの友達だった夕乃が見上げていたから、それを真似しただけだった。それでも、鈴乃が一緒に立ち止まって校舎を見上げてくれたことで嬉しそうな表情に変わった。記憶することが苦手になった友達も少しは覚えているのかと思ったから嬉しく感じたのかもしれない。誤解したままの方が、夕乃にとっては知らない方が幸せなのかもしれない。  二人は教室に入った。教室には色とりどりの髪色をしたクラスメートが楽しそうに声を上げていた。彼女たちは、おそらく卒業式だからと写真映えする格好をしたかったのだろう。その中で、夕乃も鈴乃も普段通りで来ていた。だから、「リボンをつけるか。」と声をかけられた。けれど、二人は「ありがとうでも、このままでいい。」と答えた。だから、二人は、いつもと何も変わらずに時間を過ごした。これが最後だからと何か特別なこともしなかった。卒業式はあくまで通過点だと思わせるような行動だった。  しばらくして、先生が教室に入ってくるとすぐに体育館に向かった。そして、今までと何も変わらない様子で式は進行していった。鈴乃は、校歌斉唱と言われた時うっかり小学校の校歌を歌いかけてしまった。でも周りの声が大きかったから、そのことに気づかれることもなく式は終わりを迎えた。
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