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卒業式が、終わると普段通りを心がけていた夕乃もだんだんと泣きそうになっていった。卒業式で泣いていたクラスメートに影響されたのかもしれない。近くに泣いている人がいれば、感受性の高い夕乃が泣きそうになるのは、容易に想像できるものだった。夕乃にとっては、この高校生活が終われば、物心がついたばかりの頃から一緒だった鈴乃ともお別れになる。だから、夕乃は卒業が寂しくなってしまった。
それでも、夕乃は、涙をひっこめた。絶対に泣かないように意識した。泣きたくなかった。これから、きっと写真とか撮るのに、泣いてしまったらメイクが崩れてしまうと思ったから、ぐっと耐えることにした。他の子たちと違ってメイク直しの道具も持ってないから、そうするしかないと思っていた。それに、鈴乃も泣いていなかったから。鈴乃だけが泣いていないという状況にしたら、鈴乃が冷たい人のように思われてしまう気がして嫌だと思っていたのだろう。鈴乃の手は、ある日を境にどんな日も冷たくなった。夕乃は、手が冷たい鈴乃は心が温かいと思っていた。だから、鈴乃が冷たい人だと思われてしまうことは、きっととても悲しいことだったのだろう。だから、夕乃は、涙を流すことをこらえて無理やりに笑顔を作っていた。
それから、教室に戻ると写真を撮影することになった。みんなが卒業式で渡された卒業証書を手にして写真を撮った。黒板を背景にして写真を撮った。夕乃と鈴乃はともに最前列の端の方にしゃがんで写真に写った。
それから、先生からの話があった。最後のホームルームは、今までのホームルームの時間よりずっと短いものだった。
先生が解散と告げても、教室を我先にと出ようとする人はいなかった。なんだかんだ、仲が良かったこのクラスを出ていきたくはなかった。と言うよりも真っ先に教室を出るのは、みんなに対して失礼だと思わないのかとか、薄情者だという空気感があって抜け出すことは、難しかった。
均衡が崩れたの他のクラスの人が、この教室に友達を呼びに来たことだった。そうすれば、別に不可抗力だしと言った感じでその空気感が消えた。
それでも、夕乃は、なんだか名残惜しくて教室を出ることが出来なかった。
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