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親に先に帰ってもらうことにした。そうして二人は、一緒に寄り道をしながら帰ることにした。鈴乃は、高校周辺の土地勘がなかった。だから、夕乃が鈴乃を高校生になってから出かけた場所に案内した。ここに連れてくれば、急に記憶できなくなってしまった友達が、思い出してくれるのではないかと期待した。そして、思いで話をしたかった。だから、夕乃は、鈴乃を連れてきた。けれど、鈴乃が思いだすことはなかった。それが、何よりも悲しくて、寂しく思った夕乃は、泣き出してしまった。思い出せないということは、二人の思い出のはずなのに、一人のものだと思わせることだった。
「ねえ、どうしたの。ゆうちゃん。泣かないでよ。」
「ううん。別に悲しいからじゃなくて、嬉しいからだよ。」
と夕乃は、優しい嘘をついた。
「ねえ、これでよかったの。」
「いいんだよ。れいちゃん。」
と涙を拭いながら言った。
「でも、よかったって顔じゃないよ。ゆう、嘘つかないでよ。友達でしょ。」
「いいんだよ。れい。私は、れいと少しでも長く一緒にいたかったんだよ。れいと少しでも長くいることが私の一番の幸せだから。」
と夕乃は、強い口調で言った。
「そうなの。じゃあ、一緒だね。」
「そうだね。」
「これあげる。今日でちょうどノートも終わったから、交換日記も今日で終わりにしよう。」
と鈴乃はかばんからノートを差し出した。
「新しいノートで続けようよって言いたいけど、私は、明日には引っ越しちゃうもんね。ありがとう。」
「そっか、明日なのか。」
「大学始まる前に、一人暮らしに慣れておきたいからね。でも、これからも連絡取ろうね。」
「そうだね。」
二人は、笑いあった。二人は、この時間がいつまでも続いて行けばいいのにと思っていた。たとえ、長くは続かないものだとしても。夕乃以外の人々にとっては、消えていくものだとしても、二人にとってはかけがえのない時間だった。
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