影人間 2

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「ねえ、ゆい。この前の日曜日、駅ビルの本屋さんにいた?」 ちかが聞いてきた。 「私が本屋?行くわけないじゃん。」 ちかはごもっともというような顔をし、 「そうよね。じゃあ人違いかあ。顔だけ見たらゆいだけど・・・」 小声で、 「スカート、履いていたしね・・・」 「ん?何か言った?」 「ううん、何でもないよ。最後の部活、頑張ってね」 ちかに背中を押され、体育館に向かった。 「もう引退かあ・・・」 受験生の夏前に部活を引退する事になっている。 「でもなあ・・・」 私はスポーツ推薦で既に大学へは行ける。 この高校にだって推薦だ。 バイトは禁止なので、これから部活の時間がぽっかり空くことになる。 夏を迎え、クラスの空気が変わっていた。 私のように既に大学進学が決まっている組、一般受験組、少ないが専門学校や就職組と分かれるようになっていた。 「・・・ちかとも最近、話していないや。」 ちかは一般受験組と次の模試はどうだとか、講習はどうだとかの話をしている。 「ゆいはいいよね・・・」 と何度も言われ続けるようになり、話すことはなくなっていた。 嫌味ではないと思いたいが、何度も言われるときつい。 月日は流れ、自由登校になり、時間を持て余していた。 上京するのに必要な物を買い足しに駅ビルに行った。 そして本屋さんに寄った。 「あっ・・・」 本を探しながら歩く女の子がいた。 (私の女の子版じゃん。) その子は多分、以前にちかが言っていた女の子だろう。 華奢な体が小さく動く。 多分同じ年だろう。こんな平日の半端な時間に 駅ビルの本屋さんの受験コーナーにいるのだから。 知らず私は彼女の後を追っていた。 (結構歩いたな。) 一駅分くらい歩いたかも。 人通りが少なくなった道。 彼女は信号を待つ為に止まった。 夕日がちょうど影を作り出していた。 私は家に帰ろうと背中を向けた。 その時・・・ 私の影と彼女の影が重なった。 私は歩く速度が遅くなり、彼女の顔は上向きになっていた。 ・・・ 上京し、スポーツ推薦の大学へは行くには行ったが、 ずるずると過ごしていた。 同じスポーツをしてきた母親からははっぱをかけられるようになったが、 どうしてもやる気が出ずに、あきれられた。 少し前ならこのまま大学でレギュラーになり、教師の資格を取り、地元に戻って、中学の部活の顧問になる人生のはずだった。 別に嫌いになったわけでも、練習がキツイわけでもなく、何もないのだ。 本当に私はやっていたの? いつからやる気がなくなったのか分からないけど、どのタイミングで自分の人生が変わってしまったのだろう。 それは・・・ 影にしか分からない。
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