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「ねえ、ゆい。この前の日曜日、駅ビルの本屋さんにいた?」
ちかが聞いてきた。
「私が本屋?行くわけないじゃん。」
ちかはごもっともというような顔をし、
「そうよね。じゃあ人違いかあ。顔だけ見たらゆいだけど・・・」
小声で、
「スカート、履いていたしね・・・」
「ん?何か言った?」
「ううん、何でもないよ。最後の部活、頑張ってね」
ちかに背中を押され、体育館に向かった。
「もう引退かあ・・・」
受験生の夏前に部活を引退する事になっている。
「でもなあ・・・」
私はスポーツ推薦で既に大学へは行ける。
この高校にだって推薦だ。
バイトは禁止なので、これから部活の時間がぽっかり空くことになる。
夏を迎え、クラスの空気が変わっていた。
私のように既に大学進学が決まっている組、一般受験組、少ないが専門学校や就職組と分かれるようになっていた。
「・・・ちかとも最近、話していないや。」
ちかは一般受験組と次の模試はどうだとか、講習はどうだとかの話をしている。
「ゆいはいいよね・・・」
と何度も言われ続けるようになり、話すことはなくなっていた。
嫌味ではないと思いたいが、何度も言われるときつい。
月日は流れ、自由登校になり、時間を持て余していた。
上京するのに必要な物を買い足しに駅ビルに行った。
そして本屋さんに寄った。
「あっ・・・」
本を探しながら歩く女の子がいた。
(私の女の子版じゃん。)
その子は多分、以前にちかが言っていた女の子だろう。
華奢な体が小さく動く。
多分同じ年だろう。こんな平日の半端な時間に
駅ビルの本屋さんの受験コーナーにいるのだから。
知らず私は彼女の後を追っていた。
(結構歩いたな。)
一駅分くらい歩いたかも。
人通りが少なくなった道。
彼女は信号を待つ為に止まった。
夕日がちょうど影を作り出していた。
私は家に帰ろうと背中を向けた。
その時・・・
私の影と彼女の影が重なった。
私は歩く速度が遅くなり、彼女の顔は上向きになっていた。
・・・
上京し、スポーツ推薦の大学へは行くには行ったが、
ずるずると過ごしていた。
同じスポーツをしてきた母親からははっぱをかけられるようになったが、
どうしてもやる気が出ずに、あきれられた。
少し前ならこのまま大学でレギュラーになり、教師の資格を取り、地元に戻って、中学の部活の顧問になる人生のはずだった。
別に嫌いになったわけでも、練習がキツイわけでもなく、何もないのだ。
本当に私はやっていたの?
いつからやる気がなくなったのか分からないけど、どのタイミングで自分の人生が変わってしまったのだろう。
それは・・・
影にしか分からない。
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