プロローグ

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* * * *  彼の部屋の荷物を段ボールに詰めて、宅配便で自分の家に送った。  そして次は自分の部屋だ--なのに、部屋に入った途端に空虚な気持ちになる。  だってこの部屋、どこもかしこもあの人の匂いがするんだもの……。  彼の温かい腕に抱かれたベッドも、いつでもお泊まりできるように置いていた部屋着をしまったクローゼットも、彼好みのシャンプーが置いてある浴室も。  キッチンからビニール袋を持ってきて、片っ端からあの人の匂いがするものと、二人の思い出が詰まったものをビニール袋の中に入れていく。  二人でお揃いで買ったお箸、マグカップ、タオル--その度に思い出が蘇り、涙が溢れ、前が見えなくなってしまう。  彼の部屋着や下着はダンボールに入れて、彼の部屋に送り返すことにした。  なのに……おかしいの。物はなくなっても、記憶と匂いは色褪せない。そうなると、もうここにはいられないと思った。  すぐに新しい部屋を探そう。あなたが存在するこの部屋にいたら、きっと私はダメになる。だって今もまだ彼のことがこんなにも大好きなんだもの--。  でも仕方ないじゃない。彼のことを試したのは私。それの報いを受けただけ。  私は自分自身を守るために、全ての彼の思い出と記憶を消すことにした。
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