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入ってしまったーーその瞬間、唯香は目の前に広がる光景に衝撃を受けて言葉を失った。
唯香の荷物がなくなった部屋は、至る所に酒の缶や瓶が置かれ、キッチンにはカップ麺の容器が放置されている。
恐る恐る冷蔵庫を開けてみれば、中には酒しか入っていなかった。
心配していたことが現実になっているーー唯香の目から涙がこぼれ落ちた。
こうなるような気がしていたのに、私は彼を残してこの部屋を出た。でも……私だっていっぱいいっぱいだったの。
部屋の中は唯香が好きだった彼の匂いは一切せず、酒の匂いがこびりついている。
その時、ローソファのそばに置かれた段ボールが目についた。見覚えがある気がしたのは、それを唯香が送ったからだった。
中を開けてみれば、彼の部屋着が入っている。しかし部屋着はクタクタになっており、何度も出し入れをしたように見えた。それを取り出して鼻のそばに持っていけば、薄っすらと彼の匂いが残っている。
唯香は寝室のクローゼットの中から祥太郎のスポーツバッグを取り出すと、着替えなどの荷物を詰め込み始めた。
それから落ちていた袋に酒の缶と瓶を集めていく。ある程度まで片付けをすると、ようやく二人で過ごしていた頃の姿が戻ってきた。
この部屋に戻って来た彼が、少しでも希望を見つけてくれることを願いながら、唯香は部屋を後にした。
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