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 あれから一週間。彼が倒れた原因は酒の多量摂取によるもので、肝臓がだいぶ弱っていたらしい。そして志帆から祥太郎が退院したことを聞いた。  今度こそお酒はやめて、ちゃんと食べてほしいーーそれが唯香の願いだった。  午後の診察が終わり、行きつけのスーパーに立ち寄る。彼と付き合っていた頃は、よくこのスーパーで待ち合わせをした。  唯香が先に来て買い物をし、出口で待っている祥太郎と合流する。帰る時にいつも荷物を持ってくれて、空いた手を繋いで帰ったものだった。  そんな懐かしい思い出を振り返ったからだろうか。スーパーの出口に一人の男性の姿を見つけてドキッとする。  そんなわけないじゃないーーそう思って脇を通過しようとした唯香の足が止まった。そこにいたのはまさしく祥太郎だったのだ。 「どうして……」 「荷物持つよ」 「じ、自分で持てるから」  あなたがいなくても私は一人で平気だから。そう言い聞かせるように荷物を死守する。  祥太郎は行き場を失った手を見つめてから、力なくだらんと下ろした。 「あの時はごめん……つい意地を張ったんだ……俺は七歳も上の大人だから、唯香の後を追うなんてみっともないことは出来なかった。でもその考えが間違ってたんだ……」  今更? そう思いながらも、唯香の目からは涙がこぼれ落ちた。だってその言葉をずっと待っていたから。 「唯香はいつまでも俺を好きなんだって勝手に思ってた。だから何もしなくても関係は変わらないって驕ってたんだ」  祥太郎は再び手を伸ばして唯香の手から袋を取り、反対の手でその手を握った。 「唯香がいなくなって、恐ろしいほどの喪失感を味わったよ。部屋から唯香のものが消えて、唯香の匂いが徐々に消えて怖くなった。今では君の部屋にあった服だけが、唯一唯香を感じられるものになった」  あの服からは彼の匂いがしたはずだが、彼はあの部屋着に唯香を重ねていた。
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