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「唯香は大人になって、だから二人の関係だって変わらなきゃいけなかったのに、俺はそれを怠った。子供だったのは俺の方なんだよな」
「……そうよ。だからあの日、あなたの本当の気持ちを知りたくて試したの……でも祥太郎さんは私が欲しい言葉をくれなかった」
好きだけじゃって伝わらない想いがある。そばにいるだけじゃわからない感情がある。伝えた分、見返りを期待してしまう心がある。
「俺ってクズだからさ……気付くのに時間がかかるんだよ。唯香が片付けてくれた部屋を見て……初めて大泣きしたんだ。今頃バカみたいだろ?」
唯香は驚いたように目を見開いた。高校卒業と同時に付き合い始めて五年、彼の涙を見たことがなかったのだ。
「あの時……唯香にちゃんと言えば良かった。好きも、そばにいたいも、言葉と態度で伝えないといけなかったんだよな。だから……今更だけど……まだ間に合うかな?」
確かに時間はかかったけど、この人がここまで真剣に考えてくれただなんて奇跡に近いんじゃないかしらーー唯香の顔は自然と笑顔になる。
「……バカね。あなたがクズだってことは昔からよーく知ってるの。他の人より猶予期間だって長く確保してあるわよ」
唯香の笑顔が見られて安心したのか、祥太郎はその場にへたへたと座り込んだ。唯香も同じようにしゃがむと、彼の顔を覗き込んだ。
「大丈夫?」
「……良かった……もう無理かと思った」
まるで覚悟を決めたかのように眉間に皺を寄せて唇をギュッと噛み締める。
「唯香が……好きだ。そばにいて欲しい。抱きしめたい。キスしたい。唯香が作ったご飯が食べたい……って笑うなよ。こっちは真剣なんだぞ」
楽しくて笑ったわけじゃなくて、普段何も言わない人の素直な言葉を聞いて、恥ずかしくてくすぐったくなってしまった。
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