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「佐伯はもう部活決めた?」
案の定俺は、わりかし派手なグループになりそうなところを見定めて声をかけた。俺の狙いは的中で、毎日ガヤガヤと青春っぽさのある生活を送っている。楽しいのかはわからない。ただ、こういうふうにしか学校での過ごし方がわからない。貼り付けた笑顔。表面だけの関わり。互いの心の内なんて少しも知らず、もちろん知りたくもなく、形式だけの「友達」として一時だけ寂しさを紛らわす。
「部活ねえ、まだ決めてないんだよ。このまま帰宅部かもな」
学校で人並みに上手くやっていく。そのために部活が果たす役割が大きいことはわかっていた。だけど、それだけはまだ腹を括れないでいる。
「部活なしとかつまんねえだろ。サッカー部、先輩もいい人だし楽しいぞ」
「軽音は? まだ俺のグループ二枠余ってるし」
さすがはみんなキラキラ系の部活を選んでいる。
わかってる。来年になればクラスは離れ、そこでは部活での関係が重要になる可能性も高い。だけど。
「いやいや佐伯はバスケ部に来させるから。元バスケ部なんだろ?」
「まあ、ね」
────
部活終わりに自主練をしていた。たいていあいつと二人きりで。俺たちは幼馴染で、当時はレギュラーを争うライバルでもあった。各々シュート練をする時もあれば何本も1on 1で戦うこともあった。あの時は、心から楽しさを感じていた。ある日突然、あいつが俺を体育倉庫に閉じ込めるまでは。
背中がゾッとして鳥肌が立つ。
「でももうバスケは飽きちゃったんよ。てか俺、基本的に球技苦手だし。中学のときもぜんぜんレギュラーになれなくてさ」
人と触れる。それだけで俺はあの日のことを思い出してしまうようになった。
怖い。
苦しい。
気持ち悪い。
バスケなんてできるわけがなかった。リバウンドを取りに行くこともきつめのディフェンスをつくこともしない。ボールを運んでいても人とぶつかりそうになったらすぐにパス。顧問にも部員にも手を抜くなと怒られた。俺はいつも通りにヘラヘラと、みんなの鋭い目に気づかないふりをした。今まで俺のふざけを笑ってくれた人たちも練習に不真面目な人に対しては厳しかった。居場所は消え、それでも俺は馬鹿みたいに笑う以外にどうすればいいのかわからず、辞める決断すらできななかった。
本当に、自分も人も、何もかも嫌いだ。
「じゃあマジで帰宅部になるつもりかよ」
その声はどことなく冷めている。
「まあ、なんかしらには入ろうかな」
「絶対そのほうがいいって」
「だよな」
空気を読んで答えは濁す。
「そういえば遠足さ、」
一人の言葉で話はすぐに移っていった。この会話に、この毎日に、いったい何の意味があるというのだろう。
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