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遠足
遠足などと言うものがなぜ存在するのか。単なるクラスメイトと遠出する楽しさがわからない。班決めで揉め、バス座席で揉め、いく場所でも揉める。たった一日のどうでもいいことのためにたくさんのしこり作り、時にはせっかく形成されつつあるクラス内でのグループを破壊する。正直誰と行ってもたいして変わらず楽しくないのに、なぜか行事ごととなるとみんな本性を曝け出す。そして両者の思いのズレが亀裂を作る。ほんと、面倒くさい。
「遠足の班、男女二人ずつの四人組だろ? おれたち五人だから困るよな」
「しかもおれらの一人が夏川と組む感じじゃね?」
「うわ冷めるわー」
俺は何も言わずに顔には笑顔を浮かべておく。夏川が俺たちの様子を見たら悲しむだろうとは予想できる。でも、だからって俺がわざわざ身を張るべきとは思えない。元はと言えば関わる努力を完全に怠っている夏川が悪いんだ。そんな奴のために俺の平穏な毎日を崩されたくない。
──平穏。
それを守ることに意味はあるのか。なんて、急にそんなくだらない問いが湧いてくる。考えるだけ意味のないことだ。
「ま、さっさとジャンケンしようぜ。他の二人組は決まってるっぽいし」
「うー、緊張する」
拳を前に出す。
これでいいのか。
居場所がない。誰からも求められない。あの日以降の部活が頭をよぎる。どうすればいいのかわからない。怖くてもどうしようもない。
「俺、夏川と組むから」
四人から向けられる険しい目。不思議だと言いたげな、つまらないと批判したげな。
「わざわざ佐伯が嫌な役引き受けなくても」
こいつなりの俺への優しさなのだろうなとは思う。でも、最低。
「別に嫌じゃねえよ。隣の席だし、夏川のことみんなよりわかってるから」
「……ふーん」
冷めた声に少しだけ不安になる。俺の平穏は崩されていくのか。でも、そんなもののために人を傷つけて何が楽しい。
「よろしく、夏川」
一人で隅にいた夏川にニッと笑って声をかける。夏川はしばらく俺の顔を鋭い目でじっと見ていたが、
「……気ィ使わせてごめん」
ふと足元を見つめてポツリと言った。
「何言ってんだよ。俺がおまえと組みたいから組んでるだけだから」
言ってから次第に恥ずかしくなった。頰に熱が溜まっていく。
「……なんてな。ま、楽しもうぜ」
そう付け足してはにかむと、夏川は恐る恐る顔をあげてふんわりとした小さな微笑みを見せた。
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