むゆうがく

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 私がアイラとあったのは、大学の入学式の時だった。  式に疲れた私は、庭園のベンチで、夢生動物の描夢をおこなっていた。  桜吹雪がまっていて、そこに、一筋の金色にかがやきをみた。 「あなた、おなじ学部の子よね」  髪をおさえながらアイラはいった。光はアイラの髪の光沢であった。  アイラの容姿は、とおい海のむこうの国のガラス人形のように、現実離れをした美しさをもっていた。 「まぁ、もう描夢をしているのね。とてもかわいいお馬さん。翼が生えているけれど、空をとぶの」 「昔、父の書斎でみた、幻生物回顧録に記述されていた動物をモチーフにしているのです。所詮は既存の模倣でしかないから、オリジナルの夢生動物としての認可はおりないでしょう」 「私も描夢をすこし学んだの。さっきね、そこの購買で念写紙を購入した」  アイラはカバンから念写紙を一枚とりだし、目をつむった。緑色の閃光が彼女のまわりでパチパチと爆ぜ、やがて、紙に線がひかれてゆく。描かれたのは、美しい、一角をもったクジラであった。まばたきをした瞬間、念写紙の景色は一変していた。クジラは宇宙のような空間に移動していた。潮をふきながら移動する様は、銀色の虹が、宇宙を泳いでいるようだった。「まばたきをする間もなく、描夢したものが姿をかえること」は優秀な描夢者としての条件だ、と昔読んだ本に書いてあった。「……あなた」「アイラよ」アイラは描夢をやめ、目をひらき、私に手をさしのべていた。  私は自分の名前をなのり、握手におうじた。  学食をいっしょにたべようとアイラは私をさそった。私は庭園を出る時、自作の念写紙を丸めて、くずかごに捨てた。 「捨てちゃうの」 「えぇ」あなたのみていると、くだらなくおもえた。だから、捨てた。とはいえなかった。 「かわいいお馬なのに」アイラはそれを拾い上げ、ポケットにしまった。
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