むゆうがく

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 私とアイラは、学友となった。  ともに授業をうけ、夢遊学への知見をふかめた。  教養に関する部門では、私がつねに一位の成績であった。だが、実技を伴うと、アイラに隣に出る者はいなかった。彼女が描夢する夢には、麻薬的な効能があった。取り入る者に、高等の多幸感をあたえる。学生たちは彼女のことを「ヒュプノスの生まれ変わりだ」と影でよび、その技術を目の当たりにした教授は「夢ではない。もう一つの世界だ」と評価した。  研究室には彼女の作る夢生動物のサンプルが、寝息をたて、安息の空間を作っていた。勉強疲れに喧嘩が起きたとしても、彼らの嘶きをきくと、スと怒りは静まるのだという。  企業にインターンシップにいけば、だれもが彼女の力を欲した。彼女の力は、大人の目から見れば「上質な金泉」であった。  ある日、飲み会の帰り道、アイラはふいに、路地裏にきえた。  追いかけると、雨雫のなか、アイラは傘もささずに、ひとりの赤服の少女の目元の涙をぬぐっていた。彼女は頬に殴られた痕があった。「現実からにげてきたのね」  私は水銀灯に照らされた彼女の背に、大量の銀蝶がとまるさまを目の当たりにした。 「今から奇跡を起こそうと思う。皆についていって、おやすみ」  アイラが両手を空にかかげると、蝶たちは、一斉に夜空へと飛び上がり、四方へとちらばっていった。少女は「わぁ」と歓声をあげ、夜のどこかへときえていった。気づいた時にはふとんの中だった。隣のふとんでアイラは寝息をたてていた。あれは、夢だったのか? 今でもわからない。彼女と一緒にいると、夢と現の区別がつかなくなる。  アイラはその後、国が保有する、夢遊学の最高研究機関に所属することになった。
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