むゆうがく

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 アイラを敵視するグループに情報を売り、彼女の肉体を破壊する――。  私たちは共謀し、アイラを管理する研究棟へ襲撃をしかけた。  今宵「夢重ねシステム」の姫は死に、国はふたたび、暗黒の夜をむかえる。  ――アイラに破壊工作を行う係に、私は立候補した。  ――あなたの息の根の止めること。偽りではあったが、友情の帰結点をつくることは、私に与えられた使命だとおもった。  アイラを完全に破壊することで、自分が人々の新しい姫となる……一瞬だけそんなこともおもった。だが私は、アイラにはなれない。だからこれは、八つ当たりだ。何も手に入れることができないなら、せめて、見たくないものを破壊する。非常に戯事めいた、おろかな行為だ。わかっていながらも、私の足は止まらない。私はきづいた。私はアイラに消えてほしかった。絶対的な才能は、私には光であると同時に、毒だった。  アイラを保管する研究室に忍び入る。  多くの水槽がたちならぶ。  そのほとんどは、脳ミソが沈んでいる。夢遊学の研究のため、提供されていた脳ミソであった。  人体が眠る水槽は、ただ一つだけ。 「アイラ……私はこの日をずっと待っていた。今宵、あなたを消します」  生命維持装置の電源をおとす。  緊急アラートが鳴りひびく中、私は高笑いしていた。  アイラが死ぬ。彼女の水槽に、大量の泡が発生している。赤く輝き、皮膚が裂け始める。  笑い疲れた私は、なにをおもったのか「夢重ねシステム」のギアを装着し、アイラの夢に入ることにした。  死におびえるアイラに「ざまぁみろ」といってやりたかったのだ……。  だが、アイラは、死におびえてなど、いなかった。  彼女は、つったったまま、崩壊してゆく夢の世界をぼんやりとみていた。  一羽の銀鳥が彼女の指にとまった。  すぐに羽がちぎれ、ハラハラと粉末になった。  私の来訪にきづくと、アイラは「ア、きたわね」とふりむいた。 「プレゼントを用意していた。だけど、あなたのように上手にできなかった」  彼女は指笛をふいた。アトリエからでてきたのは、馬ににた、一頭の夢生動物であった。つばさが生えており、世界をみたす不穏な空気に、恐れ、はばたかせている。大学で初めて会った時、私が描夢したものとにている……、だが、こちらのほうが、高貴で、美しかった。 「私はもういっしょにいられない。あなたがお友達になってあげて」 「アイラ、あなた、私を怒っていないの」 「どうして」 「あなたの生命維持装置をとめたの、私」 「あなたが私のことを嫌っていると、私はしっていた。  だけど、あなたは私の友達でいてくれた。  だから、私はあなたに感謝をしている。  さぁ、もうおゆきなさい。  あなたまで夢の崩落に飲みこまれ、もどれなくなってしまう」  殴ろうとしたのか、抱きつこうとしたのか、あるいは、泣きつこうとしたのか――。  私はアイラに駆け寄ろうとした。  だが、アイラはふたたび指笛をふき、夢生動物に私のからだをくわえさせ、この場から離陸させた。  アイラのすがたは、すこしずつちいさくなっていった。  私は彼女にむけてなにかを叫んでいたが、それがアイラにとどいたか、わからない。  やがて、視界にくらやみが忍びより、アイラのすがたはどんどんみえなくなっていった。  最後、金色のちいさな光が、一瞬強くかがやき、きえていった。  
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