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ひとつの国が夜にしずんだ。
日々、殺人や傷害など、犯罪が横行した。
夜が深くなった頃、汚された魂は、高層ビルよりとびおりた。
寄る辺をなくした精神たちは、日夜汚れてゆき、もう澄み切ることはなかった。
人の死体がいくつも積み上がった。
もう、生命の灯の影すらも残っていない。
時の流れが「夢重ねシステム」を解体していった。
ガラクタの山でつくられたくらやみは、陽がある時間帯でも、夜のように暗かった。
そこで、ちいさな光が点滅していた。
とおくからみれば、銀色の蝶がはばたいているようにもみえた。
くらやみのなか、馬によくにた、羽をもつ動物が足をおってやすんでいる。
そのとなりには、ひとりの女性が「念写紙」にむけて、祈るように、描夢をおこなっていた。
描かれた線は、ひとりの女の形をつくろうとした……だが、力が弱かったのか、紙はそのまえに、風化し、くらやみの奥へときえていった。
「私だって……奇跡を」
女の頭のなかにうかぶ光景は、いつかみた、大量の銀蝶を背負うアイラの背であった。私にも――彼女のように奇跡を。
女は涙を一粒ながすと、ふたたび念写紙を手にし、祈った。
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