花見?

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
私は、草木と会話をすることができる。 今までに、私が草木と会話をしたことで 彼らが元気になったことはたくさんあった。 本当に会話ができているのか?と聞かれたら 証明しようがないが、私はできていると思っている。 そんな、ある日のことだった。 「みんなで、お花見しない?」 同じ大学の友人である、あきが言った。 「おお、いいね!」 そこから、私が口を挟む間もなく あっという間に話は進み、 今週末に花見をすることになった。 私は、これまで花見をしたことがなかった。 草木と会話ができるなら、花見はさぞや 楽しいだろうと思うかもしれないが、そうではない。 桜からすれば、自分の目の前で様々な人が 酒を飲んで騒いでいるのを見ることになるのだ。 これではまるで、桜はキャバ嬢ではないか。 そんなことを思って今まで参加をしてこなかったが、 今回は私の目の前で花見計画が進んだのだ。 ここから断れるほど、メンタルは強くなかった。 それに草木を大事に思うあまり、人間関係を 台無しにするなんて本末転倒だ。 当日はどうなるのかな、とやや憂鬱な気持ちに なりながら日々を過ごし、あっという間に当日になった。 「場所は確保してあるの?」 「康太が、桜の木の目の前で待ってくれてるって!」 10人ほどの人数で公園を歩いていると、 一人の男が手を振っていた。 「おーい、ここだよ!」 康太が、大きなスペースを確保していた。 「さぁ、お花見を始めようか!」 そこから、飲めや騒げやの宴会が始まった。 私は、陰でこっそりと座ってお酒を飲んでいた。 ふと思い、目の前の桜に話しかけてみることにした。 「こんな目の前で騒いじゃって、すみません」 「ん?あれ、君はもしかして私の言葉がわかるのか?」 そういうので、私が頷くと桜が言った。 「そんなことは、まったく気にしていないよ。 毎年のことだから、こうやって君たちが騒いでくれて むしろ嬉しいくらいだね」 桜の言葉に、私ははっとした。 キャバ嬢のようだ、なんて思っていたが、 桜が注目されるのなんて一年の中での わずか数週間だ。 それ以外の時期には見向きもされないだろう。 そう考えると、キャバ嬢ではなく 親戚の集まり、に近いのかもしれない。 自分の見識の狭さを恥ずかしく思いながら 「そうなんですね。じゃあ楽しませてもらいます」 と私が言うと、桜が 「ええ、好きなだけ楽しんでください。 あ、でも一つだけ不満があるんです」 と言った。 大声がうるさいだとか、ゴミが汚いだとか、 そんなことだろうかと私が思っていると、 「あまり、私を見てくれる人がいないんですよね」 と桜が言った。私は、大笑いをした。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!