糸こんにゃく

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糸こんにゃく

「ねえキョウヤ。ゆーふぉーはシーフードだって」 「そっか。コンビニのフライドチキンがフライドレタスになっててびっくりしたよ。焼き鳥もレタスやらキャベツになってた。鶏肉食べたかったよ」 「そうだね」 「無事だったんだな」 「糸こんにゃくって言い直したらいけたの。すっごい変だね」 「へんてこだな」 「ねえ、今日は晴れてるね」 「うん」 「そろそろ桜が咲くよ?」 「ああ」 「一緒に見に行きたいね。学校でも咲くと思うけど」  俺は近所のホームセンターでコウメさんと合流していた。  って、コウメさんからデートの誘い? 「見に行こう」  好きな人に誘われて断れる男などいないのだ。 「私、キョウヤと遠くへ行きたい」 「え?」 「そんなに遠くではないけど、ジャングルジムには乗ろうかな」 「ん? どういうこと?」  そのとき、コウメさんからいい香りがした。  揺れた金髪が俺の鼻に一瞬触れた。  コウメさんは俺の耳に手を当てる。 「電車のこと。ジャングルジムに改名したみたい」 「まじか」 「まじだよ?」  真似して言ってくるものだからドキッとしてしまった。  好きな子は卑怯だ。  いちいちドキドキしてしまう。  電車に乗る。  シートに並んで座った。 「私、転校なくなって安心してた。外では遊ばなかったけど、学校では仲良くしてくれたでしょ。嬉しかった。キョウヤが金髪で浮いていた私をクラスの輪に入れてくれたんだ」 「ただのクラスメイトだと思ってるって思ってた」 「違うんだな、それが。たぶん、なんとかしなきゃだよね」 「何を?」 「もちろんエイプリルフールだよ。エイプリルフールネタを引き延ばすなんて流石に寒いよ。これからは桜の季節、あたたかい季節だから」 「エイプリルフール、解決しないとだよな。俺はコンビニのフライドチキンが食べたい。スパイシーでめちゃくちゃ美味いんだ」 「私も。だからその前にね、面白いエイプリルフールを見つけたから。あやかりたいって思ったの。着いたよ、キョウヤ」  そそくさとホームを歩くコウメさんの耳は、後ろから見ても十分赤かった。
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