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「南の国でのんびりするのはどうだ。たまには」 「ですから…仕事の予定が…」  社長は桂城だが、仕事に関しては篠宮は決して譲らない。今どき古風な手帳に小さな字でびっしりと書き込まれている店の予定。それは確かに桂城の目にも入った。  しかし、あっさりと視線の先を変えてしまう。 「お前の首…細いな」  首筋にひとつキスを置く。耳の形もいいと呟いてそこにもひとつ。腕をさらに緩め篠宮の手を取ると指にもひとつ。 「…社長。…休暇が必要でしたら、どうぞお一人で…」  意に沿わぬ話はいつも逸らされてしまう。篠宮は硬い腕から逃げ、今は唯一仕事の存在を思い出させる手帳を指に挟んで翳かざした。  桂城はじろりとそれを斜めに見上げた。かと思うと相手の手からもぎ取って、あっさりとした仕種で部屋の隅に投げ捨てた。  弧を描いて飛んだ手帳の行き先を言葉もなく視線で追う篠宮。その目はほんの少し非難と当惑を混ぜて、自分に覆い被さってくる男の目を射った。 「せっかく夜は長いのに、そんなことを言い出すお前が悪い」  
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