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 ふいに、夜の底から浮かび上がるように感覚が戻ってくる。  眠りから覚めた穏やかな疲れ。桂城は光の粒子を瞼まぶたの奥に感じながら目を開けた。いつものように自分の寝室の薄闇が映る。  まるで淀んだ水底のように闇が波紋を描く。頼りなげな小さな光があるからだ。  ほんの少し迷わせた視線の中に入ってきたのは、自分から身体一つ離れて向けられている細い背中。  さえぎった光が肩に白い輪郭を入れている。  少し眩しい。桂城は身じろぎもせずに、ただ黙ってその背を眺めていた。  かすかな光がいびつな十字に似た線を浮かび上がらせている。  どこかが熱くなる。それが何なのか、桂城はいつも不思議に思う。  甘く、苦く、早く、優しく、鋭く。駆け上がってくる。  桂城は残された腕を伸ばすためにゆっくりと寝返りをうった。  その気配に気がついたのか、素早く灯を消そうとする相手の腕。それを桂城は捕まえて抱き込んでしまう。コトリ、と音を立てて万年筆が床に転がった。
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