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「お前は誰の手に触れている。俺がそれを許したか」
「あ……。も、申し訳ありません……」
皇帝陛下から手を振りほどくのではなく、私に離せと命じた。
それなら、【魅了】の魔法で自由を奪われていたとしても可能だ。
無意識でやっていることだろうけど、的確な判断だ。
――手に触れただけで、怒られるなんて悲しい。
【魅了】していても、皇帝陛下に近づくのは難しかった。
魔力は多くないけれど、皇帝陛下は戦の天才。
それだけではなく、冷酷で容赦のない戦いぶりに、人々から冥王の血を引くと噂されるほど。
もし、【魅了】の魔法を使わず、私が不用意に近づいていたら、この場で命を奪われている。
「俺に用があるなら、補佐官を通せ」
「はい……」
私の目の前で扉が閉まり、侍女は震えながら、床に這いつくばって花瓶の破片を拾い集めていた。
あの美しいサファイアの瞳に、私たちは映っていない。
「ごめんなさい。私が皇帝陛下を怒らせてしまったせいだわ」
「いいえ。私の仕事ですから。お怪我がなくてよろしかったですわ」
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