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言ったところで、信用してくれたどうかも怪しい。
ユリアナは誰にも本心を打ち明けられなかった。
一番身近な存在であるはずの夫、レクスとすれ違い、会えば嫌みを言う関係。
夫婦の仲は冷めきっていた。
「皇妃の地位を手に入れたいと思っている女性は大勢います。それをわかっていらっしゃいますか?」
レクスは私の言葉に戸惑い、驚いていた。
きっとレクスは、父や兄に疎まれ、嫌われていた自分の妻の地位が、そこまで価値のあるものとは思っていない。
むしろ、避けられていると考えている。
――でも、実際は違う。世界の覇者となりつつあるルスキニア帝国。この先、レクスに娘を嫁がせたい国は増えるでしょうね。
ルスキニア帝国皇妃の地位は、欲にとりつかれた魔女が狙うほど、魅力的ものだ。
「わかった。護衛を増やす」
「暗殺者が混じっているかもしれません。人を遠ざけ、信頼できる人間だけをそばに置きます。レクス様がそうしたように」
私が言ったことが当っていたのか、レクスは表情を変えた。
――レクスにとって、信頼できるのはエルナンドだけ。
「レクス様にはエルナンド様がいます。でも、私には誰もいないのです」
ルスキニア帝国の人間を疑うのかと、罵倒されるかと思ったけれど、レクスは私の瞳を見つめて言った。
「ならば、俺がお前を守ろう」
愛されない皇妃ユリアナ。
不遇な扱いを受け、孤独だった皇宮に、ようやく居場所ができた気がした。
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