10 夫は私を助けない

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 ――ルスキニア皇帝がクリスティナを皇宮に入るのを許した。    その噂はあっという間に広がり、『愛されない皇妃』と嘲笑されるようになる――はずだったんだけど。   噂は流れなかった。 「クリスティナ様の傷は、皇宮の医術師でも治せなかったんですって」 「な、なんて恐ろしいの! クリスティナ様のように顔に傷ができるなんて嫌よ!」  優秀な皇宮の医術師たちであっても、クリスティナの傷を治せなかった。  それを知った人々は私を恐れた。 『皇妃ユリアナの怒りを買えば、恐ろしい呪いを受ける』  そんな噂がルスキニア帝国には流れていた。   ――喜んでいいのか悪いのか。悪逆皇帝としてレクスが有名になる前に、私が恐妻として有名になっちゃうわ。 「午後のお茶でございます」  私に嫌がらせばかりしていた侍女たちも、今ではすっかりおとなしくなって、粛々とした態度で午後のお茶を運ぶ。 「こちらのお菓子はグラーティア神聖国から取り寄せたものでございます」 「今日一番立派に咲いた薔薇を飾らせていただいております」 「素晴らしい薔薇ね。庭師にお礼を言いたいわ」  香りのいい薔薇を一本手に取り微笑む。  三流魔女の【魅了】の魔法は、私への恐怖心によって打ち消され、皇宮の空気は変わりつつあった。
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