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「ユリアナ様。どうかなさったのかしら……?」
「乳母に任せきりだったのに、アーレント様とフィンセント様に触れられるなんて」
レクスとクリスティナも驚いた顔で私を見る。
「レクス様。騒がせてしまってごめんなさい。栄養剤と毒薬を間違えて飲んでしまっただけですの」
侍女たちがざわめき、医術師は戸惑う。
私は気づいていた。
侍女たちはユリアナを『皇妃』と呼ばず、侮っていること。
医術師たちは解毒薬ではなく、毒の症状を緩和するだけの薬を飲ませたこと。
――この皇宮にユリアナを皇妃として、敬う者はほとんどいない。
皇子二人が大切で、ユリアナは用済みとばかりに扱われている。
その理由は――
「皇妃様。お部屋まで付き添わせていただいてもよろしいでしょうか?」
クリスティナの親切な申し出に、周囲は笑顔になった。
こちらは毒を飲み、夫の気を引こうとした憐れな皇妃。
その一方で、優しく誰からも愛されるクリスティナ。
騒ぎを起こした後だから、なおさら両者の差は際立った。
「クリスティナ様はなんてお優しいの」
「陰気なユリアナ様に……ねぇ?」
皇宮の侍女たちはクリスティナを褒め称える。
伯爵令嬢でしかない彼女が、自由に皇宮を出入りできる理由はただひとつ。
いずれ、レクスの妻として、妃になることを望まれているからだ――
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